所得税や社会保険費にも徴収強化の波-外国人就労に関わるセミナー開催(2)-

(中国)

北京発

2016年12月09日

 ジェトロが天津と北京で開催した外国人就労に関わるセミナー報告の後編。GPパートナーズ法律事務所の談亜軍弁護士が、外国人の個人所得税や社会保険費などについて解説した。

<申告漏れ指摘され追加納付の事例も>

 談弁護士の講演の主な内容は以下のとおり。

 

 税収不足が指摘される中国では、税金徴収が強化されている。外国人の個人所得税は計算が複雑なこともあり、正確に納税申告していない企業もある。こうした状況下、各地税務局の中には、管轄地域の外資系企業に対し、外国籍従業員の個人所得税の納付状況について調査票の記入・提出を求めたり、査察により納税申告漏れを指摘し追加納付を命じたりする事例が発生している。

 

 税務局による納税状況調査は、虚偽の報告をした場合、脱税と見なされる可能性が高いので、正確な情報を報告することが望ましい。納付漏れに気付いた場合、自ら追加納付する方が、税務局に指摘されてから納付するよりよいだろう。外国人の個人所得税の計算は複雑なため、できれば会計士や弁護士などに依頼して、正しく計算しているか確認することが望ましい。

 

 外国人の個人所得税納付について、税務局がチェックする主なポイントは4点だ。

 

1)中国での所得と国外での所得を正しく計算・申告しているか。

2)納税していない所得については、日中租税条約の定めている3つの免税条件(中国の滞在日数が1暦年で183日を超えない、報酬が日本など外国本社から支払われた、報酬を中国の会社が負担していない)を満たしているか。特に、駐在員事務所の代表を兼任している場合、外国に所在する本社が支給している給与のうち、中国勤務に相当する所得は納税申告しているか。

3)住宅手当や出張手当などの手当や諸費用が、税務局の免税条件を満たしているか。

4)個人所得税の税額を正しく計算しているか。

 

<障害者就業保障額算出に含まれる外国人の給与>

 企業には障害者雇用義務があり、北京市では従業員数の1.7%、天津市では1.5%が所定雇用比率として規定されている。所定雇用比率を満たせない場合、障害者就業保障金の納付が必要となる。各社の障害者就業保障額は、自社の前年度在職社員数に所在地の所定比率(北京市1.7%、天津市1.5%)を乗じた値から、前年度に雇用した障害者数を差し引いた値に、前年度在職社員の平均年額給与を乗じた額となる。

 

 前年度在職社員に外国人が含まれるか否かは各地で異なっており、北京市では外国人が含まれていなかった。しかし、国家税務総局が「障害者就業保障金徴収使用管理弁法」(2015101日施行)を公布したことを受けて、北京市税務局は「北京市障害者就業保障金徴収使用管理弁法」(201611日施行)を公布し、2016年から北京市でも障害者就業保障金を算出する際に、前年度在職社員に外国人も含めるという北京市税務局の解釈が示された。給与額が高い外国人社員も含めて障害者就業保障金額を算出することになったため、企業の負担が大きくなっている。

 

 加えて、従来は障害者連合会が障害者保障額を検定し徴収(もしくは税務局が代行徴収)していたが、2016年から、障害者連合会は障害者の雇用人数の検定のみを担当し、税務局が障害者保障額の検定と徴収を担当することになった。個人所得税の徴収により社員数や給与情報を把握している税務局が障害者保障額の検定と徴収を担当することにより、以前と比べ障害者保障金の過少申告や滞納が明らかになりやすくなっている。また、税務局は障害者連合会と異なり行政権限もあることから、過少申告や滞納に対する査察や処罰が行われやすくなっている。

 

 企業としては、障害者就業保障金の主管部門が障害者連合会から税務局に移管されたことにより、監督管理が厳しくなっていることを理解し、税務局から要求があれば遅延なく納付することが求められる。中国障害者連合会の発表によると、2015年末時点で中国の障害者数は全人口の6%に当たる8,500万人に上る。障害者の就労支援政策拡大により、障害者雇用義務の所定比率が今後さらに高くなる可能性もあり、障害者の雇用を検討することも今後の選択肢となる。

 

<帰任時の納付済み社会保険費の処置に2つの方法>

 高齢化の進展もあり社会保険の財政状況が厳しい中国では、社会保険費の不足が懸念されている。2011年に「在中就労外国人の社会保険への参加の暫定弁法」が公布されるなど、外国人に対する社会保険費納付が強化されている。労働局が外国人の社会保険の加入状況を把握するため、外資系企業に対し調査票の記入・提出を求めている地方もある。社会保険の登録は、就労許可証書取得から30日以内に、社会保険センターに登録することになっている。

 

 外国人が帰任する場合の社会保険の処置方法としては、社会保険個人口座を閉鎖し、個人口座の残高を一括して引き出すか、社会保険個人口座を保留し、再度中国で就労する際に、社会保険費を続けて納付し納付期間を累計するか、2つの選択肢がある。本人が死亡した場合は、法定相続人が公証・認証した親族関係の証明書類(日本の場合は住民票)を中国の社会保険センターに提出することで、個人口座の残高を相続することができる。

 

 社会保険を納付した外国人が定年を迎えた時に累計納付期間が15年以上ある場合、養老保険を毎月受け取ることができる。納付年数が15年に満たない場合には、社会保険を終了し、本人が個人口座の残高を一括して引き出すか、不足期間分を補充納付することで、養老保険の受給資格を得ることができる。養老保険を受け取るには、年に1回、中国の社会保険センターで生存を証明する必要があり、外国(日本)で受け取るのであれば、公証・認証した生存証明書を提出することになる。

 

(日向裕弥)

(中国)

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