「欧州の政治・社会情勢」が最大の経営課題に-2016年度欧州進出日系企業実態調査(1)-

(欧州)

欧州ロシアCIS課

2016年12月08日

 ジェトロが欧州進出日系企業を対象に実施した調査によると、2016年の営業利益見通しは「黒字」が72.7%に達し、その割合は年々増加している。経営上の課題として、前年4位だった「欧州の政治・社会情勢」が1位に浮上、「不安定な為替変動」も前年の5位から2位になった。在英日系企業でみると、英国のEU離脱を決めた国民投票の影響を受けて2017年の営業利益の見通しに減速の兆候が表れており、景気低迷・市場縮小を不安視する見方が強まっている。2回に分けて調査結果を報告する。

<欧州全体の営業利益見通しは高水準を維持>

 ジェトロは920日から1018日にかけて、「2016年度欧州進出日系企業実態調査」を1,403社を対象に実施し、1,000社から回答を得た(有効回答率71.3%)。

 

 それによると、欧州進出日系企業の2016年の営業利益見通しは「黒字」が72.7%(前年比0.7ポイント増)、「均衡」14.8%(0.1ポイント減)、「赤字」12.6%(0.5ポイント減)だった。直近5年間の欧州全体の「黒字」割合は年々増加している(図1参照)。製造業のみでみると、リーマン・ショック前年の2007年を上回る高水準をここ3年間維持している。しかし、在英日系企業の2016年の「黒字」は70.4%で、前年から0.7ポイント低下し、前年比増だった欧州全体とは異なる結果となった。

図1 営業利益見通しの推移(欧州および英国)

 2015年と比較した2016年の営業利益見込みは、「改善」39.0%、「横ばい」40.6%、「悪化」20.4%だった。中・東欧の製造業で特に「改善」の割合が高い。業種別では、食品・農水産加工、鉱業、医療機器で「改善」が6割を超えている。食品・農水産加工の改善理由として「生産量増加と単価アップ」を挙げた企業があり、日本食品の需要増が背景にあるとみられる。営業利益見込みが改善する理由は「現地市場での売上高増加」の割合が最も高く、悪化する理由としては、ホテル・旅行・外食で「テロ」や「難民騒動」との回答がみられた。

 

 2016年と比較した2017年の営業利益見込みは、「横ばい」45.0%、「改善」43.0%、「悪化」12.0%だった(図2参照)。「改善」と答えた企業の割合は、国別ではスロバキアが85.7%で最も高かった。他方、ギリシャが14.3%と最も低く、英国が31.6%で続いた。

 

 調査年と比較した翌年の営業利益見込みの推移において、直近5年でみると、在英日系企業は在欧州日系企業全体と同じ傾向を示してきた。しかし、2017年の営業利益見込みはEU離脱の国民投票結果を受け、「改善」の割合が前年比9.1ポイント減少、「横ばい」が3.8ポイント増となり、減速の兆候が表れている。

図2 調査年と比較した翌年の営業利益見込みの推移(欧州および英国)

<「不安定な為替変動」も経営課題に>

 経営上の課題として、前年4位だった「欧州の政治・社会情勢」(前年比12.9ポイント増)が最大の問題に浮上した(表参照)。EU懐疑主義やポピュリズムの台頭による政治の先行き不透明性に加え、テロ・移民問題などによる観光客の減少とそれに伴う消費への影響懸念が背景にあるとみられる。特に非製造業で約半数(50.2%、前年比13.1ポイント増)の企業が「欧州の政治・社会情勢」を問題点として挙げた。

 

 「不安定な為替変動」(13.5ポイント増)は前年の5位から2位に浮上した。EU離脱を決めた英国の国民投票後のポンド安などが影響しているとみられる。特に製造業では最大(51.4%、12.2ポイント増)の課題となった。「人材の確保」(4.4ポイント増)は、前年に続き2位(「不安定な為替変動」と同率)だった。

 

 在英日系企業における経営上の課題としては、「不安定な為替変動」(前年比18.1ポイント増)、「欧州の政治・社会情勢」(19.9ポイント増)が上位に浮上した。「景気低迷、市場縮小」は直近4年の調査で年々順位を下げていたが、2016年度は16.3ポイント増の39.5%となり、5位になった。英国のEU離脱による景気への影響を不安視する見方が強まったとみられる。

表 欧州ビジネスにおける経営上の問題・リスク(複数回答)

 特に中・東欧の非製造業で問題視されている「新たな競合企業の出現」(欧州全体で32.4%、中・東欧の非製造業で39.6%)について、具体的な国籍を聞いたところ、在欧州日系企業全体では中国企業が57.1%(前年比1.3ポイント増)と最も高く、欧州企業44.5%(4.5ポイント増)、韓国企業21.0%(1.6ポイント減)と続いた。中・東欧では新たな競合企業として、欧州企業の比率が76.3%と高い。

 

(深谷薫)

(欧州)

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