経営難によるリストラは法定条件に厳しさ-天津で進出企業支援セミナー開催(3)-

(中国)

北京発

2016年12月01日

 ジェトロが天津市で開催した進出企業支援セミナー報告の3回目は「人員整理のリスク管理」について。人員整理は、手順を間違えて違法と見なされると、退職者に対し経済補償金を2倍支払う必要がある。広東敬海(天津)法律事務所の李華明弁護士が、人員整理の4つのケースのうち3つについて、法定手順と注意点を紹介した。

20人以上・10%以上の人員削減は可能も具体的規定なし>

 李弁護士によると、「労働契約法実施条例」第1912項では、経営上の重大な困難により20人以上または全従業員人数の10%以上の人員削減が必要である場合、リストラを実施することが可能としている。しかし、具体的な規定はなく、各企業所在地の規定に従うことになる。

 

 天津市の場合、「天津市企業経済性人員削減暫定規定」で経営難によるリストラの法定条件として、a.連続3年以上赤字経営、累計欠損が毎年増加、b.稼働率が連続260%以下かつ50%以上の従業員が自宅待機、c.連続6ヵ月以上、最低賃金の支給ができない、という条件を全て満たす必要があり、実現は難しい。天津経済技術開発区で数件の申請があったものの、今まで1件も受理されていないのが実態だ。

 

 経営不振の際に人員削減する実務的な方法は、早期退職制度、指名交渉など、いずれも会社が経済補償金を支払うことを前提とした協議解除となる。解除条件には法的制限がなく、会社と従業員が協議で合意できれば労働契約を解除することが可能だが、従業員の同意を得る必要があるため、会社が希望する人物や人数どおりに人員削減が進まない場合が多い。

 

 労働契約解除の合意率を高めるには、協議を通じ早期に契約解除した方がメリットがあることを従業員に理解させることがポイントだ。残留しても残業収入は減少する、社内管理の厳格化がさらに進むことなどを感じさせる環境づくりも必要となる。また、あくまでも協議解除であり、会社による解雇ではないことを明確にし、従業員に誤解を招くような説明を避けることに注意が必要だ。行政手続き面では、契約解除の1ヵ月前までに退職手続きを労働行政部門に報告する必要があり、報告先は天津市の規定では、月間の契約解除者が20人以上の場合は企業所在区の労働行政部門、50人以上の場合は天津市の労働行政部門、200人以上の場合は天津市人民政府となる。

 

<法律を悪用した長期病欠者の対応に悩む企業も>

 中国では「医療期間」と呼ばれる労災以外による病気、けがによる休暇中には従業員の労働契約を解除できない期間が法律で規定されている。医師の診断証明書が容易に入手できること、法律が1995年の施行から改正されておらず現状に合わないことなどから、それらを悪用する従業員がおり、その対応に悩む企業が多い。

 

 従業員の病気休暇を管理する際には、病休申請手順、条件、権限などに関して詳細に規定すること、規則の運用を徹底すること、証拠を収集・管理することが注意点となる。例えば、病休申請を承認しない場合、申請した従業員に適時に通知すること、医療期間の満了後、業務復帰の可能性について適時に確認し、各プロセスの証拠を収集しておくこと、従業員の申請資料に虚偽の疑いがある場合、虚偽事実の立証以外に、本人が当該資料を提出した事実を証明することも重要だ。過去には、本人が提出した診断証明書が偽物だったにもかかわらず、本人が提出したことを証明できず企業側が敗訴したケースもあり、例えば、診断証明書の裏に本人に署名してもらうことも対策となる。

 

<「業務不適任」理由の労働契約解除には要注意>

 「労働契約法実施条例」第199項では、「労働者が業務に不適任であり、教育訓練または職場調整を経てもなお業務に不適任な場合、労働契約を解除することができる」としている。「業務不適任」を理由に労働契約を解除した事案で、会社と労働者が争った2016年の天津経済技術開発区の判例では、会社の契約解除は違法と認定され、2倍の経済補償金を支給するよう判決が下された。判例をみると、長年勤務し、労働契約を複数回更新している従業員を業務不適任の理由で契約解除することについては裁判官の理解を得ることが難しい。会社による従業員の「不適任」評価の合理性や、「教育訓練または職場調整」の実施状況が審査されることになるが、定義や運用があいまいなこともあり、裁判官を納得させるに至らないケースが多い。

 

 「業務不適任」を理由に労働契約を解除するのであれば、次の点に注意が必要となる。

 

○業務不適任の判断基準に関する法律規定がないため、評価方法、基準、手順などの社内基準を制定し、従業員に内容の説明を行い、記録を残しておくこと。

○実務では、一般的に評価において不適評価となった根拠を求められるため、日常管理において問題が発生したときにその問題点を記録しておくこと。

○業務不適格と見なした後に、教育訓練または職場調整を実施し、それでも依然として業務不適格と判断せざるを得ないという、各プロセスで実施したことを証明する証拠を収集しておくこと。

 

(日向裕弥)

(中国)

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