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ITを駆使し個別化医療を実現へ-医療機器見本市「メディカ」開催(2)-

(ドイツ、欧州)

ヘルスケア産業課、デュッセルドルフ発

2016年12月22日

 ドイツの医療機器見本市「メディカ(MEDICA)」では、民間企業のみならず公的研究機関もITと医療機器の融合に個別化医療の実現と普及の可能性を見いだすが、ユーザー重視の開発が普及のカギを握っている。連載の後編。

ITがオーダーメード型医療を後押し>

 2016年のメディカのキーワードの1つは、「ITを活用した個別化医療(personalized medicine)の実現」だろう。これまで診断、治療の双方で技術革新が進み、より詳しく、より精密に、より痛みが少ない製品が多数生み出されてきた。世界の医療業界が次に目指すのが、「一般的な治療法で効果を得られない場合の解」(マーストリヒト大学健康・医療・ライフサイエンス学部のアンジェラ・ブランド教授)だ。従来の一般的な治療法だった多数の患者向けの、いわば最大公約数的な診断・治療から、より個々の状況に合わせたオーダーメード方式の医療の実現と普及が新たな課題となっている。

 

 ITがその後押し役を担う。スマートフォンなどのモバイル端末を通して、気軽に利用できる自己健康管理ツールを例に挙げる。個人の健康状態を記録し、徹底した個人情報管理の下、クラウド技術を用いたデータの共有により、患者は自分の生活リズムを守りながら、医療従事者と常につながり、適切なアドバイスを受けることができるようになる。さらに、患者が日々の健康管理を主体的に行うことにより、健康の維持・改善や悪化する前の予防的対処など、健康管理で先手を打てるようになることが、要介護者の増加や医療現場の人材不足といった課題の緩和にも貢献する。

 

 メディカでは、心拍数などの生体情報からストレスといった心理状態、さらに病気の進行状況をスクリーニングできる多様なウェアラブルデバイスやセンサー、アプリなどが紹介された。

 

 医療機器大手フィリップスは、「健康な暮らし、予防、診断、治療、ホームケア」というヘルスケアサイクルの各段階で自己健康管理や医療従業者とのデータ共有を通して、適切なタイミングで、適切な人に対し、適切なオーダーメード医療の提案を行う製品・サービスを紹介した。

 

 中でも、人目を引いていたのはフィリップス・レスピロニクス合同会社によるホームケア用の呼吸関連機器コーナーだ。専用ソファーに腰掛け、3D眼鏡をかけると数分間、睡眠障害と戦う動画の主人公になれる。睡眠時間4時間未満のビジネスパーソンが、大事な会議に間に合うように慌てて車を運転するが、集中力が低下しているため事故に遭いそうになる。最後に「睡眠を大切に」というメッセージが流れ、生活習慣を見直す意欲を喚起する。3D体験者が次に目にするのは、質の高い睡眠実現のため同社が売り出す、持ち運び可能な睡眠時無呼吸治療装置(CPAP装置)だ。機器本体から日々の治療の進捗状況を確認できるほか、ブルートゥース(Bluetooth)機能を活用した専用アプリとの連動により、手持ちのモバイル端末からも自己健康管理が可能となる。医療従事者もソフトウエアを通して、使用状況をタイムリーに確認し、サポートが必要な患者に素早い対応を行うことができる。

写真 人目を引いたフィリップスのブース(ジェトロ撮影)

 個別化医療の実現には、公的機関も注目する。欧州最大の応用研究機関であるドイツのフラウンホーファー研究所では、医療機器、アプリ、病院をつなぐデジタルソリューションの開発を進めている。メディカでは、センサーを搭載して全身を覆うウェアラブルスーツのプロトタイプを紹介。フラウンホーファー研究所から製造技術のライセンスを受けて、大量製造を実現するメーカーを募集していた。医療とITの融合は、医療機器メーカー、IT企業、金融、行政など多くの主体が連携することで、より大きな取り組みに広がる可能性がある。この分野での市場開拓を目指す企業にとり、同研究所のような研究機関との連携も1つの道になるだろう。

 

<個別化医療の機運は盛り上がりの兆し>

 現実に目を向けると、個別化医療の普及にはいま少し時間を要しそうだ。欧州では、欧州委員会が資金援助し、各国政府や機関が協力するかたちで、報告書「個別化医療の欧州ビジョンの策定に向けて」を20156月に取りまとめた。ここでは普及の課題として、全ての国民、研究者、各国の保険制度のパラダイムシフトの必要性を挙げている。具体的には、研究・開発プロセスへの各国民の積極的な関与や個人情報の利用に関するルールの整備、個別化医療に関わる医療費の設定、償還の新たな仕組みの構築、などだ。普及に向けて乗り越えるべき多くの課題が挙げられている。

 

 しかし、夢物語というわけでもない。一般消費者の間では、簡単に入手できるスマートフォン用の健康管理アプリの人気が高まっている。アップストアには50万点以上の関連商品があり、アプリのダウンロード数は2015年に30億回を超え、2年間で倍増した(「メッセクリエ」誌201611月)。

 

 中でも、ドイツの動きは注目に値する。ドイツ貿易投資促進機関(GTAI)によると、世界のモバイルヘルス市場の売上高の15%を占めるドイツでは、人口の29%が健康管理アプリを既に利用している(ドイツ大手メディア系のベルテルスマン財団の調査)。また、一部の公的医療保険会社は既にスマートフォンアプリを保険対象にしている。ITを活用した個人での健康管理が実用段階に入ってきている。

 

 ドイツ連邦政府もモバイルヘルスケアを推進する。2016年には、医療のデジタル化を推進するEヘルス法が施行。2018年までに治療方法やアレルギーの有無など、緊急時の対応に必要な健康情報がオンラインで入手できる仕組み(電子健康保険カード)が全国的に整備される予定だ。

 

<ユーザーに寄り添った開発が急務>

 個別化医療のさらなる普及には、患者や医療現場などのユーザーに寄り添い、ユーザーの使い勝手を追求した製品・サービスの開発がカギを握る。日々の生体情報を精緻に計測できるウェアラブル機器を開発したとしても、ユーザーが邪魔に感じたり、防水性に難があったりすれば、製品は使われなくなる。メディカでは、ウェアラブルデバイスの開発企業などが構成する国際企業団体「ウェアラブルテクノロジーズ」主催のセミナーで、「普及にはあらゆる生活場面で、自然に身に着けられる装着性の改善がカギ」などの指摘があった。

 

 製品単体の性能や機能重視の製品開発だけでは不十分だ。自然に生活の一部になり、さらに患者のライフスタイル、年齢、健康状態、気持ちを考慮した、一人一人の可能性を広げる付加価値製品に商機があり、個別化医療の流れは加速されるだろう。

 

(シッチ・アナスタシア、福井崇泰)

(ドイツ、欧州)

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