企業から人件費の0.5%を徴収し職業実習に利用-2017年4月スタート、賦課金制度の最終案を公表-
(英国)
ロンドン発
2016年11月10日
英国教育省は10月25日、2015年8月に発表された職業実習賦課金制度の最終案を公表した。この制度は2017年4月に開始され、年間人件費が300万ポンド(約3億9,000万円、1ポンド=約130円)を超える企業から、人件費の0.5%相当額を賦課金として徴収し、職業実習や評価にかかる企業の経費への補助に利用するとしている。政府は国内産業の生産性向上と労働者のスキル不足解消を目的に、2020年までに職場実習の場を300万に拡大することを目指している。
<2017年5月以降、賦課金を毎月源泉徴収>
英国の職業実習制度(注1)において、賦課金を課す、職業実習賦課金(Apprenticeship Levy)制度が2017年4月6日に導入される。対象となるのは、年間人件費(注2)が300万ポンドを超える企業。教育省が2016年2月に発表した政策案によると、該当するのは全企業の2%以下だという。人件費が300万ポンドを超えているのに賦課金を支払わない場合、所得税不払いに準じた罰則が科せられる。
賦課金は、人件費の0.5%相当分を毎月、所得税の申告と同時に歳入関税庁に源泉徴収方式(「PAYE」と呼ばれるオンライン申告)で納入させる仕組み。徴収が実際に開始するのは4月分給与の申告が始まる5月1日以降となる。賦課金を支払った企業には、1社当たり年間1万5,000ポンド(1ヵ月当たり1,250ポンド)が還付される。また、賦課金は法人税控除の対象となる。財務省は、2020年度(2020年4月~2021年3月)には賦課金徴収額が30億9,500万ポンドに上ると試算している(表参照)。
この制度は、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの各行政府単位で運営される。イングランドの場合を例にとると、賦課金は基金にプールされ、賦課金を支払った企業は賦課金デジタル口座に登録することで、基金にアクセスできる。前述の年間1万5,000ポンド分も、この口座に還付される。基金の用途は、職業実習や評価にかかる経費への補助に限定されている。企業が引き出す際、10%分を政府が補助して上乗せする。つまり、1ポンド納入すると、引き出す際には1ポンド10ペンスの利用が可能となる。逆に、デジタル口座を利用しない状態が24ヵ月続くと、基金にアクセスできなくなる。
また、賦課金を支払わない企業も、職業実習コストの10%の負担金(政府が残り90%を支払う)を支払うことにより、賦課金を支払った企業が享受するサービスを利用することができる。
<職業実習制度の拡充で生産性とスキルの向上目指す>
英国における職業実習賦課金制度の導入案は、2015年8月の夏予算案(総選挙後の緊急予算案)で発表された。職業実習は、企業現場での実習(年齢に応じた賃金が払われる)と、専門学校など教育機関におけるその職種内容に合った学科トレーニングが並行して行われるものだ。政府は、他の先進国に比べて低水準にある生産性を向上させるとともに、スキル人材不足に対応するための有効な手段と見なし、2015年6月に、職場実習の場を現行の220万から2020年までに300万に拡大する計画を発表している。
英国の職業実習制度は16歳以上であれば利用でき、学士に匹敵する資格が取得できるコースまで、学歴レベルに応じて大きく4段階の実習コースが用意されている。企業実習と並行して行われる学科トレーニングを担うのは、実習訓練プロバイダーとして政府に認可された団体で、2016年9月末現在で62団体が登録されている。政府は、賦課金の導入により、コスト負担を理由に実習生受け入れに尻込みしていた企業の参加を促すだけでなく、職業実習の裾野拡大に向けて10月25日に実習訓練プロバイダーの追加登録も開始した。
<産業界は制度最終案に一定の評価>
一方で、2015年8月に職業実習賦課金の導入案が発表されて以降、英国産業連盟(CBI)や英国小規模企業連盟(FSB)、エンジニアリング事業者協会(EEF)など産業界からは、「制度設計が不十分」「疑問点が多すぎる」といった厳しい評価が多く寄せられ、施行延期に向けたロビイング活動が活発に行われてきた。
しかし、今回の賦課金制度最終案の公表後には、CBIの人材・スキル担当ニール・カーバリー部長は、導入時期が適切かどうかという点については疑問が残るとしながらも、「政府が産業界の懸念に配慮したことはうかがえる」として一定の評価を示した。また、建設業協会(FMB)のブライアン・ベリー会長は10月25日、「建設部門の職業実習の3分の2が中小企業によって担われている中、柔軟性のある資金調達手段だ」と述べ、賦課金制度が建設部門のスキル不足解消に大きな意味があると高く評価した。しかし、英国商工会議所(BCC)教育・スキル担当部長のマーカス・メイソン氏は、同会議所が9月に行った調査では、企業の40%が賦課金制度についてよく理解していない現状を踏まえ、「企業への説明を最優先にすべきだ」と注文を付けた。
(注1)現場で対応できる技能・技術を持つ人材の不足が深刻化する一方で、技能不足の若者の失業率が各国で高止まりする中、学業と平行して企業の現場で実習訓練を受け、技能を身に付けた上で社会に出ることを促進する制度。
(注2)「paybill」という用語で表現され、歳入関税庁による所得税および社会保障費の電子源泉徴収システムの対象となるクラス1の所得者(週給155ポンド以上の所得を得て、年金支給開始年齢に達していない従業員)に支払っている人件費(賃金、賞与、手当、年金拠出金被雇用者負担分などを含む)の総額。
(岩井晴美)
(英国)
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