不良債権の回収は事前対策が重要-天津で進出企業支援セミナー開催(2)-

(中国)

北京発

2016年11月30日

 ジェトロが天津市で開催した進出企業支援セミナー報告の2回目。天津市敬海商務諮詢服務の紙谷正昭副総経理は、天津市の日系企業から与信管理に関する問い合わせが増えているとして、不良債権の回収について事前対策の重要性を解説した。

<公開の信用情報でまず企業情報を確認>

 紙谷副総経理によると、不良債権の事案には以下のような共通の問題点がある。

 

1)取引会社の事前の信用調査が不完全

2)契約書と与信状況が合っておらず、取引条件や支払い方法が自社にとって不利な約定

3)営業担当者が業務上の過失を適時報告していない

4)役職者の引き継ぎで、実務の潜在的な問題点が書面になっていない

5)受注から代金回収までの一連の流れを統括管理する部署または管理者が明確になっていない

 

 企業の信用調査は、国家工商行政管理総局のウェブサイトの「全国企業信用情報公示システム」で経営者の経歴や対外公表されている財務情報を、また企業が債権の支払いなどで訴訟を受けたことがあれば最高人民法院のウェブサイトの「裁判文書網」でその事実を確認できる。また、契約書の必須記載事項には、当事者に関する条項(契約主体の明確化)、契約対象物に関する条項(契約対象物およびその権利の明確化)、契約の争議解決に関する条項がある。こうした必須事項が漏れていないか、自社にとって不利な約定になっていないか、契約締結前に弁護士に確認してもらうとよい。

 

 訴訟になった場合に必要な証拠には、a.契約書、補充協議書、議事録、確認書、通知書、支払証憑(しょうひょう)、発票(領収書)、帳簿、発注書、納品検収書、催促書簡などの書面証拠、b.電子メール、携帯電話のショートメールなどの電子データ、c.ビデオ映像や電話などの録音記録など視聴覚で確認する証拠、d.事案関係者などによる証言証拠、e.公的に認められた鑑定機構が発行した鑑定書などの鑑定意見がある。裁判における証拠のうち書証は原本を、物証は現物を提出する必要がある。証言証拠は、証人は裁判に出廷する必要があるが、報復を恐れて出廷しないケースもある。鑑定意見は、例えば、納品した金型に不備があるので取引先が代金を支払わないと主張する場合に、裁判所が公に認められた鑑定機構に依頼して鑑定を行うことがある。

 

<訴訟以外の債権回収手段は可能も裁判所に確認を>

 参加者からの主な質疑と紙谷副総経理の回答の概要は以下のとおり。

 

問:2年間の債権の訴訟時効期間が過ぎた後、相手が債権債務の事実を認めた場合、その書面証拠をもって訴訟で債権回収を実現させることは可能か。

 

答:債権に対する法定時効の2年間が過ぎた後に債務者がその債務事実を認め、債権者が裁判所に債権回収について起訴する場合、実務面においては、債権者の請求内容(書面の形式など)と債務者の承認内容を基に裁判所が最終的に判断することになる。提出証拠の情況に基づき、裁判所の心証により異なる判断が下されることが考えられる。

 

問:国家工商行政管理総局のウェブサイトで、企業信用情報を確認できるとのことだが、どこまで確認できるのか。情報はリアルタイムで更新されるのか。

 

答:近年、企業の国家工商行政管理総局への毎年の企業情報登録が任意となり、これに伴い、「全国企業信用情報公示システム」に記載される情報も限られ、更新も適時行われていないケースが増えつつある。同システムは、あくまでも最低限の情報を無料で確認できるもの。もし財務諸表、投資者情報などを知りたい場合は、調査会社に委託して調査する方が効果的だ。

 

問:債権回収を行うに当たり、訴訟を提起する以外に方法はあるのか。

 

答:実務面では、債務者に弁護士書簡を送付すること、または債権債務関係が明確である場合、裁判所の支払い命令(支付令)手続きにより簡易に債権回収を実現することが可能となる。しかし、詳細については事前に裁判所に確認する必要がある。

 

(日向裕弥)

(中国)

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