ビジネス環境を紹介し、日本企業の投資を呼び掛け-視察ミッション派遣、セミナーも開催-

(ボスニア・ヘルツェゴビナ)

ウィーン発

2016年11月14日

 ジェトロとボスニア・ヘルツェゴビナ対外貿易会議所(FTC)は10月6~7日に、在日ボスニア・ヘルツェゴビナ大使館およびボスニア・ヘルツェゴビナ外国投資促進庁(FIPA)の協力の下、同国へのビジネス視察ミッションを派遣した。ドイツ、オーストリア、英国、セルビア、トルコなどから日本企業13社の18人が参加し、業種は商社、金融、製造、運輸、ITなど多岐にわたった。

<内戦後の援助から投資の時期に>

 初日の106日午前には、セミナーが首都サラエボで開催された。FIPAから経済概況や投資環境について説明があり、進出外資系企業で構成される外国投資家協会(FIC)による「進出外国企業からみたボスニア・ヘルツェゴビナのビジネス環境」と題したパネルディスカッションも行われた。FTCFIPAからは、安価で質の良い労働力や世界最低レベルの法人税率(2016年5月11日記事参照)に加えて、世界銀行が毎年発表している各国のビジネス環境ランキング「Doing Business」で、電力や交通インフラの向上により2014年の131位から2016年には79位に大幅にランクアップしたこと、921日にボスニア・ヘルツェゴビナのEU加盟申請が受理され、着実に加盟への歩みを進めていることなどが紹介された。

 

 FTCのブルーノ・ボイッチ会頭は「日本では20年前の内戦に関するボスニア・ヘルツェゴビナの負の側面ばかりが報道される。実際に最新の状況を感じていただきたい」と呼び掛けた。FIPAのブラジェンカ・ミシュコビッチ長官代理は、内戦後の日本のODA援助に謝意を示した上で、「援助の時代は終わりつつあり、次の発展のために投資に移行する時期に来ている」と日本企業の来訪を歓迎した。

 

 FICのサニャ・ミオブチッチ専務理事や現地に進出している日本たばこ産業、ドイツのメッサー、ルクセンブルクのアルセロール・ミタルの代表らは、労働者の質の高さやトルコとの自由貿易協定(FTA)活用の可能性などを評価した。その一方で、課題として国内市場の小ささや複雑な行政手続きを挙げた。

 

<地場有力企業との交流や工場見学も>

 セミナーの後、一行は地場企業や進出外資系企業とのネットワーキングランチを経て、106日午後から7日午前にかけて地場資本の企業4社を訪問し、経営層との意見交換や工場見学を行った。いずれも西欧や米国など国外との取引が売上高の半分以上を占める代表的な企業で、各社の概要は以下のとおり。

 

○プリベント:本社はドイツだが、ボスニア人が創業した地場資本の最大規模の企業。主に自動車用の座席や部品、テキスタイルなどを幅広く製造する。

○ボスナリイェク(本社:サラエボ):元国営企業。国内に2社しかない医薬品製造業者の1社で、主にジェネリック医薬品を製造する。

TEOエレクトロ(本社:ハジッチ):主に配電盤用金属キャビネットを製造する元国営企業で、2000年に民営化された。

HUB387(本社:サラエボ):20以上の国内IT企業が集うハブ組織として2013年に設立され、入居者には小規模なIT企業を対象にしたインキュベーターや若年層を対象とするIT教育機関がある。

 

 また、106日夜には駐ボスニア・ヘルツェゴビナ大使公邸で、小川和也大使、平島淳国際協力機構(JICA)バルカン事務所企画調査員、西浜滋彦FIPA駐日代表が、日本人の視点から見た同国の現状について情報提供し、参加者と意見交換した。

 

<物流面は問題なし、市場規模などに課題>

 日本の参加者の多くがボスニア・ヘルツェゴビナとのビジネスを考える初期段階にあるため、参加の目的は市場や投資環境の視察だった。初めて同国を訪れた参加者は、これまで抱いていた内戦による負のイメージとは異なる現状に驚いているようで、バルカン地域にあまり足を運ぶ機会のない西欧からの参加者は「実際に見て聞いて印象がガラッと変わった。物流面での問題がないのが意外だった」と述べていた。一行が訪問したプリベントやTEOエレクトロはいずれもサラエボから車で40分程度で、高速道路が整備されておりアクセスに支障はない。TEOエレクトロの経営陣は、物流面の課題についての日本企業からの質問に対し、「道路は整備されており、複数の国際的な物流会社が国内で事業をしており問題ない」と答えていた。

 

 一方で、人口約380万人の小国であるために「市場としてのポテンシャルは低い」とみる参加者や、国としての投資インセンティブの少なさを「魅力に欠ける」とする参加者もいた。また、西浜FIPA駐日代表は「社会保障費の雇用者負担が給与の3133%と大きいことも進出を考える外国企業にとっての課題だ」と指摘した。

 

 今回の訪問がすぐに投資に結び付くとは限らないが、「サプライヤー候補を継続して発掘したい」と話す製造業関係者や、「HUB387所属のIT企業へトライアル発注を考える」という参加者もおり、両国間のビジネス活性化の兆しもみられた。

 

(中村祐貴)

(ボスニア・ヘルツェゴビナ)

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