不良債権トラブルを事例で紹介-天津で進出企業支援セミナー開催(1)-

(中国)

北京発

2016年11月29日

 ジェトロは天津市で10月14日、天津日本人会と進出企業支援セミナーを共催した。内販拡大に伴う不良債権リスクと人員削減に伴う法律・経営リスクに関して、専門分野の弁護士が事例に沿って解説した。4回に分けて報告する。1回目は不良債権トラブルに関して。

<契約・受注は必ず書面で>

 「不良債権のリスク管理」について、天津市敬海商務諮詢服務の紙谷正昭副総経理が解説した。売り手である天津市の日系企業A社と買い手である広東省広州市の中国企業B社の債権トラブル事例をケーススタディーとして、以下のように問題と対策が紹介された。

 

 A社とB社は2009年、自動車部品の売買基本契約を締結。B社はFAXと電子メールでA社に発注し、A社は物流会社C社に運送を委託してB社に納品した。その後、新しい製品の発注を受けるが、信頼関係を重んじ、2009年に締結した売買基本契約書を基に補充契約書を締結または発注書のみで受注処理をした。また、A社は良好な業務関係を保つためにB社の急な電話での発注にも対応した。しかし、B社は2014年、A社が提供していた15種類の製品のうち3種類の品質に問題があることを理由に、15種類の全商品の支払いを停止した。取引開始当時のA社営業課長は既に退社し取引関係を把握している人がおらず、A社の責任者である総経理は、問題を究明するために何から始めればよいか困っていた。

 

 この事例の問題点を掘り下げてみると、まず契約・受注時の問題、納品時の問題、情報管理の問題がある。

 

 契約・受注時の問題を詳しくみると、売買基本契約書に検収基準は別紙参照と記載されていたものの、別紙となる付属書類がなく、発注書にも検収、規格基準などが明記されていなかった。また、B社からの電話による発注に対して、形に残る方法で確認がされておらず、B社からの発注書が一部存在していなかった。この教訓は、a.各取引内容に応じて契約書を締結すること、b.適時の締結が困難である場合、まずは電子メールなど形が残る方法で取引状況を整理し先方と確認すること、c.後日、書面で補充契約書または発注書などを取り交わすこと、を徹底することが挙げられる。

 

<上司も担当者の業務引き継ぎを把握>

 納品時の問題について、本事例では、納品記録となる運送証憑(しょうひょう)にB社の従業員でない者(調査の結果、委託警備会社の警備員であることが判明)の署名しかなく、製品品番と数量が一部明記されていない運送証憑もあった。納品実績に対して納品書が非常に少なく、存在する納品書にA社担当者の署名はあってもB社が受領したことと検収に合格したことを示すB社担当者の署名がなく、納品した証拠をそろえることができなかった。物流会社に委託して納品する際には、a.契約書で受け取り責任者を指定し、受領と検収基準を明記すること、b.納品書に担当責任者の直筆の署名をもらうこと、c.品番や数量など詳細を明記した運送証憑を保管すること、に注意が必要だ。

 

 情報管理の問題では、A社とB社で同一製品に対する品番が異なっている上、当該製品が同一のものであることを示す確認書もなく、B社がいつ発注しA社がいつ納品したのか不明瞭であること、担当者の引き継ぎが行われておらず、担当者も責任者も債権管理の関連書類の不備を事後掌握することとなった。教訓として、a.契約書や発注書における製品の名称と品番を統一管理すること、b.それが困難な場合は当該製品が同一であることを証明する確認書を作成し、双方が署名すること、c.責任者や上司も積極的に担当者の業務引き継ぎに関わり、潜在的な問題点について検討を行うこと、が挙げられる。

 

<一連の取引の流れを管理する責任者を配置>

 企業として、これから対応できることは次の5点となる。

 

1)現状の取引状況を書面で整理し、足りない書類があれば問題が表面化する前にそろえること。

2)事後管理が社内業務マニュアルに基づき適切に管理されているかを月ごとまたは四半期ごとに定期的に見直し、その結果を人事評価に反映させる。

3)中国人役職者の引き継ぎ時は、担当部署の各事案を整理させ、上司の立ち会いの下、書面で確認書を残しておく。

4)上司に部下が関連情報を定期的かつ適時に報告するような仕組みを構築し、問題点の「見える化」を図る。

5)取引先の選定、取引の開始から代金の回収まで各部署の役割を明確にし、取引に係る一連の流れを総括的に管理する部署または責任者を配置する。

 

(日向裕弥)

(中国)

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