新政権におけるフィリピンの貿易・投資機会をアピール-ドゥテルテ大統領の来日に合わせ経済フォーラム開催-

(フィリピン、日本)

国際経済課、アジア大洋州課

2016年10月31日

 フィリピンのドゥテルテ新政権の経済政策を日本の投資家向けに説明する初の経済フォーラムが、10月26日に東京都内で開催された。同フォーラムにはドゥテルテ大統領をはじめ、財務、貿易産業、国家経済開発、農業などの主要経済閣僚がそろって出席し、約1,000人の参加者を前に講演を行った。ドゥテルテ大統領は、農業の近代化や、インフラ投資などを通じ、遅れている地方部の発展に努めるとともに、投資家にとって魅力的なビジネス環境を整える考えを示し、日本の官民の協力に期待を表明した。

<フォーラムに約1,000人が参加>

 630日に就任したフィリピンのドゥテルテ大統領の来日を機に、ジェトロ、日比経済委員会、在日フィリピン大使館、日本アセアンセンター、フィリピン協会が「フィリピン経済フォーラム」を主催した。日本とフィリピン両国の企業関係者を中心に約1,000人が参加した。

 

 冒頭、主催者の日比経済委員会の朝田照男代表世話人、ジェトロの石毛博行理事長、日本アセアンセンターの藤田正孝事務総長がそれぞれあいさつを行い、ドゥテルテ大統領および関係閣僚の来日に歓迎の意を示した。今後、一層の成長が期待されるフィリピン市場や新政権が掲げる「社会・経済アジェンダ10項目」による外資規制緩和を含むビジネス環境整備に期待を寄せた。国交正常化60周年を迎えた日本とフィリピンの協力関係のさらなる強化にも言及した。

 

<関係閣僚がビジネス環境改善に意欲>

 最初にカルロス・G・ドミンゲス財務相が登壇し、日本とフィリピンの緊密な経済関係と協力関係を模索していくと述べ、特に日本からのインフラと製造業への投資を呼び掛けた。ビジネスがしやすい国にするため、ドゥテルテ新政権では一貫性のある経済政策を10項目のアジェンダにあるように進めていくと強調した上で、財政では歳入の拡大と投資財源の確保を進め、歳出の40%を社会サービスに向けるとした。具体的には、3年間で現行30%の法人税を25%へ引き下げることに言及した。事業環境の改善にも意欲をみせ、20175月には一部の外資規制の開放を実施すると述べた。また、大統領は、憲法上の経済に関する規制を土地所有を除いて開放する予定であることにも触れた。

 

 続いて、ラモン・M・ロペス貿易産業相は、フィリピンにおける貿易・投資機会について紹介した。フィリピンへの投資の優位性として、投資奨励策の充実、年7%に迫る高い経済成長率、格付け会社による経済自由度指数やグローバル競争力などの各種指標が2011年と比べ改善していること、などを挙げ、フィリピン地方部のビジネス環境改善も進めていくとした。製造業区、ITパークなど348ヵ所の経済特区があり、一定期間の法人税や資本財輸入税の免除など各種インセンティブといった投資家保護の用意があると述べた。日本は貿易と投資の両面において重要なパートナーであり、今後も工業分野でのさらなる投資と、英語力が高く、勤勉で豊富なフィリピンの人材の活用を呼び掛けた。

 

<地方のインフラ開発を加速させる政策も>

 アーネスト・ペルニヤ国家経済開発長官は講演の中で、フィリピン経済の持続的な成長にはインフラ整備が不可欠だとし、マニラ首都圏に加え、地方のインフラ開発に注力していく考えを強調した。フィリピン政府は前政権以降、民間の資金を活用してインフラ整備を行う官民連携(PPP)の枠組みを重視してきた。同長官は、PPPを規定するBOT(建設・運営・移転)法の改正に言及し、合弁などの新たな契約行為、事業者からのプロジェクト提案を可能にする新たなプロセスの採用、国家的プロジェクトへの不動産税免除などが検討されていると説明した。BOT法の改正に加え、PPPプロジェクトの手続きを改善するガイドラインも示されるとしている。新政権は、インフラ整備を行うことで、マニラ首都圏から地方へのヒトやモノ、サービスの流れを加速させていきたい考えだ。

 

<農業の近代化に向けて日本の支援を期待>

 エマニュエル・F・ピニョール農業相は、農業の近代化や生産性向上の必要性を強調した。同氏は「収穫後施設の未整備のため、収量の16%が失われている」と、フィリピン農業の現状を説明。近代化には精米機などの農業機械が不可欠で、フィリピン農家の間では日本製品の人気が高いと述べ、同分野における日本政府の協力に期待を示した。また、日本企業に対してもバナナやエビ、ゴム、マニラ麻とも呼ばれるアバカなどフィリピンの主要農産物への投資拡大を促した。新政権では農業の近代化に向けて、全国の耕作適地を示した地図の整備や、食糧消費量調査、太陽光発電を活用した灌漑整備、農家の資金調達改善などの取り組みを進めているという。

 

<新たな経済特区や工業都市つくる構想も>

 チャリート・B・プラーザ・フィリピン経済区庁(PEZA)長官はまず、国内には348の経済特区が存在し、国籍別の内訳では日本、製品別ではエレクトロニクス・半導体が最大の投資シェアとなっている現状を説明した。さらに、将来の連邦制移行に備え、地方部における経済特区や工業都市をつくる構想を明らかにしたほか、現状では経済特区内に立地する外資系メーカーに限って与えている投資インセンティブ(注)を、今後は国内の投資家にも適用する考えを示した。他方、現行のPEZA投資インセンティブの変更に関する言及はなかった。新政権は法人税引き下げなど包括的な税制改革を進めており、進出外資系メーカーはPEZA投資インセンティブへの影響を注視している。

 

<大統領自ら登壇し新政権の方針を説明>

 フォーラム終盤には、ドゥテルテ大統領が壇上に登場した。大統領はまず、国交正常化60周年の今日まで、日本とフィリピンは友好国としての関係を維持しており、さらに強い経済的な絆を築いていくことをフィリピンは優先すると述べ、貿易、投資、ODAで多大な貢献をしてきた日本に対し、さらなる支援を求めた。新政権の方針について、農村および地方部の開発、農業生産性の向上、インフラ投資支出の拡大、人的資本開発を重視するとし、雇用を生み、投資家にとって魅力的なビジネス環境を整えていくことを表明した。特に農業やインフラの面では、日本からの技術やノウハウなどの提供を呼び掛けた。今後も治安改善、汚職撲滅、ビジネスしやすい環境整備などにまい進し、フィリピンの国の尊厳を守っていくという強い意欲を示して講演を締めくくった。

 

(注)一定期間の法人税免除、資本財やスペアパーツ・原材料の輸入税免除、通信・電力・水道などの国内調達に対する付加価値税(VAT)免除など。

 

(米山洋、田中麻理)

(フィリピン、日本)

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