緊縮から積極型へ財政方針を転換-保守党大会(2)-

(英国)

ロンドン発

2016年10月24日

 10月2~5日にバーミンガムで開かれた保守党大会報告の2回目。10月3日に演説を行ったフィリップ・ハモンド財務相は、前政権による2020年までの財政黒字達成の目標を取り下げ、EU離脱に伴う経済的影響を緩和すべく、一定の規律を保ちつつも財政を緊縮型から積極型に切り替え、住宅やインフラ、イノベーションに積極的に投資していくことを表明した。

<住宅やインフラに投資しEU離脱の影響を緩和>

 党大会2日目の103日午前は経済をテーマとして、ハモンド財務相、サジード・ジャビド・コミュニティー・地方政府相、クリス・グレイリング運輸相、グレッグ・クラーク・ビジネス・エネルギー・産業戦略相が今後の経済政策について演説を行った。

 

 ハモンド財務相は、英国経済の底力とイングランド銀行の金融政策によって、国民投票に伴う短期的な市場の混乱は収束したと分析しつつも、「経済への影響はこれから」として財政政策も必要との認識を示した。そして、「EU離脱後も英国が企業にとって投資、イノベーション、成長に最良の場所であり続けられるよう、EUとの交渉で最良の条件が得られるよう戦う」と述べ、前政権が立てた2020年までの財政黒字達成の目標を取り下げ、今後は一定の財政規律を保ちつつも、住宅やインフラ、イノベーションなどに積極的に投資していくとした。

 

 ジャビド・コミュニティー・地方政府相は、住宅価格の急上昇に伴い、あまりに多くの若年層が住宅に手が届かない状況にあるとして、2020年までに100万戸の新規住宅を建設することを目標に、中小企業やデベロッパーによる住宅開発プロジェクトを促進するために30億ポンド規模の住宅建設基金を新設することや、公有地において住宅整備を加速化させるために20億ポンドを新たに投資することなどを明らかにした。

 

<高速鉄道や空港拡張計画を推進>

 グレイリング運輸相は、2010年に保守党が政権を奪取して以来、都市鉄道クロスレールやマンチェスター空港バイパス道路の建設、ロンドン・シティー空港拡張など、交通インフラ整備に力を入れていることを強調した。しかし、英国の交通システムはいまだ完全ではないとし、政府として引き続き高速鉄道計画(HS2)や、イングランド南東部の空港拡張計画を推進していくと述べた。

 

 HS2については、議会でスケジュールの遅延や見積もりの甘さなどが指摘されているが、105日に演説を行ったアンドリュー・ジョーンズ閣外相(鉄道担当)は、2016年内に議会での審議を終え、6ヵ月以内には建設を開始できるとの見込みを示した。イングランド南東部の空港滑走路拡張計画については、ヒースロー空港の第3滑走路新設案、既存滑走路の延伸案、ガトウィック空港の滑走路新設案の3つの案で議論が紛糾しており、長期間決着がついていないが、グレイリング運輸相は「間もなく最終判断を下す」と語った。

 

<地域間格差是正の取り組みは継続>

 ハモンド財務相は、EU離脱の国民投票の結果が意味する重要なメッセージの1つは、国民の大半が、経済成長の軌道に乗っている地域との格差に大きな不満を抱いていることだとして、政府としてロンドンに偏在する英国経済のバランスの是正に向けた取り組みを進める考えを示した。

 

 具体的には、前政権が推進していたイングランド北部地域の経済活性化構想「ノーザン・パワーハウス」を継続していくことを発表した。さらに、2015年にジャビド・ビジネス・イノベーション技能相(当時)が立ち上げた、バーミンガムを中心とするイングランド中部地域の経済活性化構想「ミッドランド・エンジン」についても同様に推進していく考えを示した。ミッドランド地域は、自動車メーカーのジャガー・ランドローバーなど製造業が多数進出しているが、最近も銀行大手HSBCが本社を移転することを発表するなど、ロンドンからの近さやコストの安さから移転先の候補として注目を集めている。ハモンド財務相は、こうした地域経済活性化構想を各地で展開し、相互の競争を促進し、さらなる活性化につなげていく考えだ。こうしたプロジェクトの資金についても、例えば「マンチェスター開発債」や「ミッドランド開発債」のような債券を発行できるよう政府内で検討していく考えを示した。

 

(佐藤丈治)

(英国)

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