欧州委、軍民「二重用途物品」の輸出規則案を発表-サイバー監視技術も対象に-

(EU)

ブリュッセル発

2016年10月24日

 欧州委員会は9月28日、民生と軍事の両方の用途に利用可能な物品やソフトウエア、テクノロジーなど、二重用途(デュアルユース)物品の輸出管理を近代化・強化する規則案を発表した。情報通信技術の発展を考慮し、二重用途物品の定義の見直しや輸出許可などの要件の統一を行うとともに、大規模プロジェクトを対象とする包括的な輸出許可の導入や、一般輸出許可の適用範囲の拡大を提案した。

<人間の安全保障の観点からサイバー監視技術も規制>

 欧州委は、二重用途物品は適切な民生目的の利用だけでなく、深刻な人権侵害やテロ、大量破壊兵器の開発にも利用し得る、と指摘し、そのため、二重用途物品の輸出では、EU企業の競争力の確保や合法的な貿易の実現と、高水準の安全保障や適切な水準の透明性を両立する必要がある、としている。

 

 欧州委は、EUから輸出されたサイバー監視技術(Cybersurveillance technology)が、人権侵害や国際人道法への違反行為に乱用された形跡があるとも指摘した上で、「人間の安全保障」の観点から、二重用途物品の定義を見直し、一部のサイバー監視技術関連の物品を輸出管理の対象とすることを提案した。

 

 規制対象として提案されたのは、合法的通信傍受(Lawful Interception Systems)の監視センターや、傍受関連情報などのデータ保持システム、それら専用に設計された部品やソフトウエアなどだ。なお、課金システムや、移動体通信の加入者情報データベース(HLR)のデータ収集機能は対象外としている。

 

<一般輸出許可の適用範囲拡大を提案>

 欧州委の規則案には、輸出事業者や加盟国の管轄機関の負担軽減を目的に、二重用途物品の輸出管理ルールの効率化や域内での統一に向けた現行規則(注)の修正も盛り込まれた。規則案は、各種の輸出許可の定義を明記するとともに、その有効期間などの要件を明確化した。また、原子力発電所の建設など大規模プロジェクトについて、プロジェクト期間中、報告や検査など特定の条件下で、関連する輸出を単一の輸出許可でカバーする「大規模プロジェクト向け輸出許可」も提案した。

 

 また現行規則で、品目や輸出先、輸出目的などに応じて6分野が設定されているEU一般輸出許可(二重用途物品のEU域外の特定の国・地域への輸出について、個別に輸出許可を取ることなく輸出が認められる一般的・包括的許可)に、「暗号技術」「企業内でのソフトウエアや技術の伝達」などの4分野を加えることを提案。一方、「輸出」と「輸出者」の法的な定義を見直し、技術移転において、研究者やコンサルタント、規制対象技術をダウンロードする個人など、どのような個人が輸出者に該当するかを明確化した。このほか、域内の規制の一貫性の向上を目的に、二重用途物品の仲介貿易取引(ブローカリング)や技術支援、積み替え(トランジット)に対する規制の統一なども盛り込まれた。

 

ICT産業団体は競争力の低下を懸念>

 EUの情報通信技術(ICT)関連産業団体であるデジタルヨーロッパは、法案の発表と同日に声明を発表した。二重用途物品のEU域外での乱用を防ぐという規則案の趣旨に賛意を表明し、新たな一般輸出許可の導入を高く評価した一方で、二重用途物品の輸出規制を人権保護の手段としている点について、疑義を表明した。

 

 またデジタルヨーロッパは、ICTのハードウエアとソフトウエアについて、EUからの輸出が許可されなかった場合、域外の第三国から調達することができることから、規制の効果に見合った輸出管理の枠組みが必要だ、と指摘した。EUの輸出管理は、世界的にみて既に高い水準にあり、欧州委の規則案は、ICT産業だけでなく、ICTを利用する産業の競争力の低下も招きかねない、と懸念を表明。その上で、法的な予見可能性の向上や、EUの貿易相手国の貿易管理制度と合致した輸出管理制度の必要性などを訴えた。

 

(注)現行の二重用途物品の輸出規制については、ジェトロ海外情報ファイル「EU輸出品目規制:I.二重用途物品関する規制 詳細」を参照。

 

(村岡有)

(EU)

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