「一帯一路」政策は新型の地域協力メカニズム-北京のセミナーで中国人専門家が解説-

(中国)

北京発

2016年10月27日

 ジェトロは10月13日、北京で中国日本商会調査委員会と共催で「『一帯一路』政策の現状と展望」と題したセミナーを開催した。中国のグローバル戦略に詳しい中国社会科学院・アジア太平洋グローバル戦略研究院の李向陽院長が、「一帯一路」政策の基本的な位置付けや、他の地域協力メカニズムとの違いなどについて解説した。

<「一帯一路」政策に関する認識にずれ>

 2013年に中国の指導者が「一帯一路」政策を提唱してから3年が経過した。同政策に関しては多くの異なる見方があり、その認識のずれが同政策の実施にマイナスの影響をもたらしている。

 

 中国の学術界では、「一帯一路」政策の目的として、生産能力過剰の解消、資源エネルギーの確保、人民元の国際化、中国企業の海外進出など、多くが挙げられている。政府レベルでも理念と認識にずれが生じており、実施段階を迎えて際立った問題となっている。地方政府では同政策を地方で実施することを、中央政府から優遇政策や投資プロジェクトを得る手段と考えているケースもある。

 

 また、沿線国家でも同様だ。「一帯一路」政策を支持するが、中国政府からどの程度資金を得られるのか、と聞かれるケースもよくある。このほか、米国や日本を含む同政策の対象地域外の主要国においては、新世紀の中国版マーシャルプラン、新植民地主義、かつての朝貢体制への回帰、などと捉えられ、懐疑的な見方が多い。

 

 「一帯一路」政策は中国の無償の国際奉仕ではないし、沿線国への資金のばらまきでもない。中国政府が繰り返し強調しているのは、同政策は中国の独奏曲ではなく、国際社会の協奏曲であることだ。従って、基本原則として、中国と周辺国とで合致する共通利益を共に求めていくことに重きを置いている。

 

<中国の基本的位置付けは4点に>

 この原則に基づき、「一帯一路」政策の基本的位置付けとして、以下の4点が挙げられる。

 

 第1に、中国の新時代の周辺戦略の重要な下支えになる点だ。中国経済の高度成長に従い、その経済規模が大きくなっており、この10年で外部環境も含めて大きな変化が起きている。安全分野では、米国のアジア太平洋地域へのリバランス戦略により、中国の周辺国が新しい挑戦に直面している。経済分野では、環太平洋パートナーシップ(TPP)合意による環境変化が起きている。社会分野でも、中国は難しい状況に直面している。過去20年間、中国と多くの周辺国は互いに貿易パートナーだが、それらの周辺国にとって中国が最大の輸出先、あるいは貿易黒字国だったとしても、中国の平和的台頭に正しい理解ができておらず、中国とは地政学的に近いものの親しくはない状況にある。

 

 改革開放以降、中国は周辺国戦略として、安定した隣国関係の構築を唱えている。習近平政権になってからは、「親、誠、恵、容」(親しく、誠意を尽くし、互恵原則に基づき、広く包容する)が新しい理念として追加された。このように主張するのは簡単だが、実際に行うのは難しい。それを実現する上で、「一帯一路」政策が重要なよりどころになる。

 

 第2に、経済外交の新プラットホームになっている点だ。過去30年間の中国の外交の大きな特徴は、経済発展の下支えをするというものだった。そして、現在は外交が経済発展を下支えすると同時に、経済発展が外交を下支えするかたちになっている。

 

 第3に、中国の新しい全方位対外開放の重要措置になっている点だ。これまでの改革開放の30年間を振り返ると、3つの大きな特徴があった。(1)改革開放が東部沿海地域に集中しており、中西部地域が立ち遅れた。開放度の差が、経済発展の差をもたらした。(2)目標として、WTOのマルチラテラリズム(多国間主義)の実現に絶えず近づくとしていた。しかし、ドーハ・ラウンドが停滞しており、主要国はリージョナリズムへと移行してきた。中国は必死にマルチラテラリズムの実現に貢献しようとしてきたが、それが後退してしまった状態だ。(3)対外開放の重点は、関税と非関税障壁をなくすことにあった。最近はその重点対象が変わってきた。国境の障壁の解消から、国有企業、環境保護、労働者、産業政策などの分野に移っている。こうした中で、中国は新しい対外開放として全方位的なものを目指すようになってきた。「一帯一路」政策はそれに応えたものになっている。

 

 第4に、グローバルな貿易自由化を推進する新しいルートとなっている点だ。「一帯一路」政策と既存の地域協力メカニズムとの違いは、同政策が基本的には発展主導型の地域協力メカニズムになっている点にある。TPPなどは規則主導型のメカニズムだ。「一帯一路」共同建設推進についてのビジョンと行動は、文字数にして8,000字程度だが、TPP1,000ページを超える分量がある。「一帯一路」政策の目標は、最初から厳しいルールを決めることではなく、多くの沿線国と共に経済発展を図ることにある。この意味では、新型の地域協力メカニズムといえる。

 

<「一帯一路」が有する4つの新しい特徴>

 「一帯一路」政策がほかの地域協力メカニズムと比べて新しいこととして、1つ目に、中国と地政学的に近い他国とを結び付ける古代シルクロードの協力・発展理念を受け継いだ点がある。古代のシルクロードは開放性が強く、多くの国と協力関係を築くもので、いかなる国でも参入できる敷居がないものだった。

 

 2つ目に、相互連結が基礎となっている点だ。欧州一体化においては、その構想開始前から鉄路や空路でつながって緊密に連携していたが、アジアはインフラ整備の遅れで相互連結のレベルが非常に低く、経済発展を制約する要素になっている。前述のとおり、「一帯一路」政策は発展主導型の地域協力メカニズムで、沿線国の経済発展問題をまず解決しようとしている。

 

 3つ目に、協力体制が多元的なものである点だ。国際社会の自由貿易協定(FTA)やEUなどの協力メカニズムは単一的だが、「一帯一路」政策はそれと異なり、多元的なものだ。経済回廊の協力なども含まれており、1つの枠組みの中に多元的なメカニズムが存在するのは、地域協力メカニズムの中で唯一だ。また、4つ目には、利益・責任・運命共同体を実現する点が挙げられる。

 

 「一帯一路」政策について定義するのであれば、この4つの新しい特徴、すなわち、「古代のシルクロードを絆とし、相互連結を基礎とし、多元的な協力メカニズムを特徴とした、運命共同体の構築を目標とした、新型の地域協力メカニズム」と定義できるのではないかと思う。

 

(宗金建志)

(中国)

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