日本にはない「商業賄賂」を解説-北京でコンプライアンスセミナー開催(2)-

(中国)

北京発

2016年10月04日

 ジェトロが北京で開催したコンプライアンスセミナー報告の後編。第2部ではKLO投資コンサルティング(上海)北京支店の呉強総経理が「商業賄賂の根絶」と題して、日本には存在しない「商業賄賂」(民間企業間における増収賄)について、実例を交えて法令を解説した。質疑応答とともに紹介する。

<帳簿に真実を記載しているか否かで判断>

 商業賄賂を不正競争防止法に基づくものと刑法に基づくものに分けて、呉総経理は次のように解説した。

 

 不正競争防止法に基づく商業賄賂行為は、広義では、国家機関、国有企業、国有事業機構および非国有企業およびその他従業員が経済活動において行う、職権と財物の不法な取引の行為を指す。狭義では、経営者が商品を販売あるいは購買するため、相手方の機構または個人に対して財物またはその他の手段により賄賂を送る行為を指す。例えば、取引先の役員の息子の日本留学の費用を負担する、製品を販売するための工場見学という名目で取引相手の従業員を日本の温泉旅行に招待する、といった行為も当てはまる。不正競争防止法において、リベートは商業賄賂行為だが、値引き、手数料、商業慣例による少額の宣伝用景品は商業賄賂行為に属さない。(1)当事者が帳簿に記載しているか、(2)帳簿上の記載が真実かつ正確であるか、がリベートであるか否かの判断ポイントとなる。

 

 刑法に基づく商業賄賂犯罪は、不正利益を図るために、企業またはその他の機構の従業員、外国公職人員あるいは国際公共組織の職員に財物を与えることを指す。

 

<独占禁止法違反のガイドラインは作成中>

 参加者からの主な質疑と、呉総経理と鈴木龍司顧問による回答のポイントは以下のとおり。

 

問:独占禁止法違反において、日本と中国とで競争の阻害に関する考え方の差異などがあれば教えてほしい。

 

答:日本ではガイドラインが公開されており、どのような行為が独占禁止法違反になるかということが、具体的な対応例とともに示されている。他方、中国は、幾つかは既に公開されているが、多くのガイドラインは作成中で、日本と比べると予測可能性が低い。

 

問:ライセンサーがライセンシーとの間で、知的財産権のライセンスに関してエリアを指定することがよくあるが、これは独占合意ということになり得るか。

 

答:中国では、独占禁止と知的財産権に関するガイドラインの草案が公開されている状況だ。なお、国家工商行政管理総局による部門規定(「知的財産権の乱用による競争の排除または制限行為の禁止に関する規定」国家工商行政管理総局令第74号、201547日公布、同年81日施行)で公布されているものもある。まず原則として、知的財産権を有する者がライセンスエリアを指定するということは独占禁止法違反とはならない。例外的に、知的財産権を乱用しているというようなことになると、特に支配的地位を有する場合には、独占禁止法違反となり得るが、あくまでもこれは例外だ。

 

問:講演の中で、ウイルスが入ったなどの調査名目で従業員のパソコンを調べるという話が出たが、そのように従業員をだますようなかたちで取得した証拠が後で問題になることはないか。

 

答:確かに従業員をだますようなかたちで取得した証拠が後々、問題になる可能性はゼロとはいえない。しかし、それと今まさに起きている問題において証拠を収集する重要性とを比較した際、調査目的を偽ることもやむを得ない場合があると考える。また、後々問題になる可能性についても、例えば、盗聴など、違法手段を使って得た証拠はその後の証拠能力が否定される可能性があるが、パソコンの調査自体は会社の権限として行うことができ、伝える際の目的だけ偽るというものであるから、証拠能力が否定される可能性は低いと思われる。

 

(日向裕弥)

(中国)

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