ブレグジットの影響あるも緩やかな成長を持続-ビジネスヨーロッパが「秋季経済予測」で分析-

(EU、英国)

ブリュッセル発

2016年10月27日

 ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)が10月20日、2017年のEUの実質GDP成長率を1.6%とする経済予測を発表した。英国のEU離脱(ブレグジット)問題に伴う欧州経済の先行きの不透明感を織り込み、2016年春季の前回予測値から0.3ポイント下方修正した。EU全体では緩やかな回復が続くとの見方だが、その前提としてブレグジットのソフトランディングやEUとしての自由貿易協定(FTA)の推進などが必要と指摘。欧州産業界として、ブレグジット以降もヒト・モノ・資本・サービスの自由移動の継続が不可欠とした。

2017年のGDP成長率を0.3ポイント下方修正>

 ビジネスヨーロッパは1020日、「2016年秋季経済予測」を発表し、EU全体の実質GDP成長率について、2016年は1.9%(2016年春季の予測値からマイナス0.1ポイント)、2017年は1.6%(マイナス0.3ポイント)とする見通しを明らかにした。英国のEU離脱問題など欧州経済の先行きに不透明感が漂う中、成長を牽引する個人消費は、20162.2%、20171.8%と底堅く推移し、2016年前半に減退した投資(総固定資本形成)も後半には回復がみられたことから、緩やかな成長を持続するとの見方を示した。

 

 ユーロ圏も2016年は1.7%(横ばい)、2017年は1.5%(マイナス0.2ポイント)としており、EU全体と同様に2017年には減速するものの、緩やかな回復が続くとみている。

 

 英国のEU離脱問題の経済への影響について、「ポンドに対するユーロ高と、英国市場での需要減少の影響で、英国向けの(その他のEU加盟国からの)輸出は減退が想定されるため、2017年のGDP成長率は小幅な低下(0.25ポイント程度)を予測する各国経済団体が多い」ものの、2016年については、「英国のEU離脱問題を理由に下方修正した各国経済団体はほとんどない」とした。

 

<円満な離脱協議を望む欧州産業界>

 ビジネスヨーロッパのマークス・ベイレール事務局長は「2016年秋季経済予測」の声明の中で、「これまでのところ、英国のEU離脱問題が欧州産業界の景況感を鈍らせたとは考えていない。今後は、その長期的な影響をいかに抑えるかが重要な課題で、そのためにはEUと英国の経済関係をできる限り緊密に維持する必要があり、単一市場の統合性を犠牲にすべきではない」として、ヒト・モノ・資本・サービスの単一市場をめぐる自由原則は一体のもので、交渉・協議によって取捨選択するものではないとの考えを示した。今後、EUと英国の離脱協議が双方の政治的対立に陥れば、これまでの経済関係が断絶することが懸念されるが、この声明には、欧州産業界が円満な離脱協議による決着を望んでいることを示すことで、双方を牽制する狙いがあるものと考えられる。

 

 なお、ビジネスヨーロッパは欧州経済の緩やかな回復の前提として、(a)英国のEU離脱問題の沈静化に加えて、(bEUとしてのFTAの推進、(cEUの構造改革の継続、(dEUの投資環境の改善、を挙げている。また、推進すべきFTA1つとして、あえて「米国との包括的貿易投資協定(TTIP)」を明記した。

 

<「為替レートの不安定性」に最大の関心>

 ビジネスヨーロッパは「2016年秋季経済予測」の分析の前提として、傘下の各国経済団体の景況感・経済見通しについてアンケート調査を行っている。この中で、「英国のEU離脱問題の潜在的な経済へのインパクト」について、「2017年まで」と「2018年以降」の影響の見方を聞いているが、いずれの期間でも欧州の主要経済団体は「為替レートの不安定性(の高まり)」を最も顕著な影響に挙げ、「各国企業の英国市場への(将来的)輸出アクセスの不透明性」が続いた。このほか、「EU全体の企業の景況感の悪化」「各国企業の英国市場への(将来的)輸入アクセスの不透明性(サプライチェーンの観点)」「英国子会社の市場への(将来的)アクセス・収益の不透明性」なども挙げられた。また、全ての影響について、「2017年まで」よりも「2018年以降」で大きくなるとの結果だった。

 

(前田篤穂)

(EU、英国)

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