EU離脱、2017年3月末までに通告と首相が表明-保守党大会(1)-

(英国)

ロンドン発

2016年10月21日

 与党・保守党は10月2~5日にバーミンガムで党大会を開催した。党首のテレーザ・メイ首相は2日に行った基調演説で、6月23日の国民投票の結果を受け、今後、EU離脱に向けた手続きを進めていくとして、EU離脱の正式な通告を2017年3月末までに行うことなどを表明した。党大会の内容を3回に分けて報告する。

20193月末までにEU離脱>

 メイ首相は初日の102日に行った基調演説で、EU離脱の時期と手続き、離脱後に英国が目指す方向性について詳細を述べた。

 

 EU離脱の時期については、20173月末までにEU条約第50条に基づく正式な通告を行うことを表明した。これまでメイ首相は、交渉に向けた戦略立案や投票直後の短期的混乱を収拾するための時間が必要とし、離脱の通告を先送りにしてきたが、不要な遅延は正しくないとして、通告時期を明示するに至ったと説明した。EU離脱に係る正式交渉が始まり、全てのEU加盟国が同意して交渉期間の延長を決定しない限りは、遅くとも20193月末までに英国はEUから離脱する。

 

 EU離脱の手続きについてメイ首相は、国民投票の結果は明らかであり、国民の意思に従って、政府が離脱の正式通告を行うとの意向を表明した。保守党内や野党からは、あらためてEU離脱について議会で十分な審議を行うべきとの主張も強まっているが、メイ首相は、審議を長引かせることによって離脱をなきものにしようとするこうした動きは国民の意思を侮辱するものだ、と批判した。

 

 EUとの交渉については、スコットランドやウェールズ、北アイルランドなど各行政府やビジネス界などの意向は尊重しつつも、交渉自体は国全体の利益に基づき英国政府が責任を持って行うと述べた。また、EU離脱の判断は英国全体の判断として下したものであり、一行政府のオプトアウト(脱退)はないとして、スコットランド独立の動きは認められない、とした。

 

<欧州共同体法廃止法案により一貫性を維持>

 メイ首相はさらに、EU離脱と同時にEU法を英国法に組み込む役割を果たす1972年欧州共同体法を廃止するとともに、EU法を英国法として再施行する「欧州共同体法廃止法案(Great Repeal Bill)」を2017年の議会に提出すると述べた。この法律によって、EU離脱後も必要なEU法は英国法として存続することから、企業や労働者に一定の確実性と継続性を与えることができるとした。ただし、必要な変更があれば、ブリュッセルではなく、英国議会の適切な審議を経て行うことができるなど、この法によって英国は主権を回復できると述べた。

 

 EU離脱に当たっては、EU側がヒトの自由な移動と単一市場へのアクセスは表裏一体だと強く主張していることから、EUとの貿易関係を犠牲にしても移民の制限を最優先とする「ハードブレグジット」と、単一市場へのアクセスなど経済的インパクトを最小化する「ソフトブレグジット」の間で、保守党内部でも意見が鋭く対立している。しかし、メイ首相は、EUとの将来の関係は「ソフトとハードとの間で選択するようなものではない」とし、また、ノルウェーやスイスなど他国の事例を参考にするようなものでもなく、英国として、過去の関係にとらわれない独立した国家としてあるべき最良の関係を目指して交渉するとの考えを示した。交渉に当たっては、相互の市場開放による単一市場へのアクセスを目指しつつも、移民の制限や主権の回復については妥協しない考えを示した。

 

<メディアは一斉に「ハードを選択」と報道>

 このメイ首相の演説を受け、英国メディアは一斉に、メイ首相はハードブレグジットを選択した、と報じた。メイ首相は演説の中でソフトでもハードでもないと明確にしたものの、単一市場へのアクセスより移民の制限を優先した姿勢を、メディアはハードだと理解したようだ。保守党支持者らの団体「コンサーバティブホーム」の調査によると、保守党員の76%がハードブレグジットを支持しており、メディアの多くは、メイ首相は党内の強硬派の反発を避けるためにもハードブレグジットを選択せざるを得なかった、と分析している。

 

 英国産業連盟(CBI)はメイ首相の演説を受けてコメントを発表し、「EU条約第50条を6ヵ月以内に行使するということで首相は1つの大きな疑問に答えた。欧州共同体法廃止法案についても、一貫性の観点からビジネスの助けとなるだろう。しかし、その他については暗闇の中にいるようなもので、これではビジネスは継続できない」と、一定の評価をしつつも、透明性の観点で引き続き改善が必要だと懸念を表明した。

 

(佐藤丈治)

(英国)

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