税関手数料が低減、原産品の事前教示も可能に-TPP発効が貿易円滑化に与える影響(2)-

(メキシコ)

米州課

2016年09月12日

 環太平洋パートナーシップ(TPP)の第2章14条は、加盟各国の税関手数料は役務の費用の概算額を限度とし、従価により手数料や課徴金を課してはならないと規定している。現在、日本からの輸入品については、原則としてCIF価格の0.8%が税関手数料(DTA)として徴収されているが、TPPが発効すればDTAが1申告当たりの定額制へ軽減されることとなり、高額品を輸入する場合には大きな節約となる。また、TPPの枠組みでは、関税分類(HSコード)だけでなく協定の原産品かどうかの事前教示を輸入国税関に求めることができるため、適用税率を事前に確定させることで円滑な事業計画が立てられる。連載の後編。

<原産国に応じて異なる税関手数料>

 メキシコ税関が徴収する行政手数料のDTAは、主に税関のインフラ整備の財源として用いられている公課であり、連邦公課法第49条で具体的な税率や税額を定めている。確定輸入の場合は、原則として税関評価額(CIF価額)の0.8%が徴収されている。ただし、CIF価額の0.8%が287ペソ(約1,579円、1ペソ=約5.5円)を下回る場合は287ペソが最低価格として徴収される。

 

 メキシコが自由貿易協定(FTA)を締結している国からの輸入の場合、当該FTAの原産品については同FTAに基づき税関手数料を相互に免除していることがある(表1参照)。例えば北米自由貿易協定(NAFTA)では、第310条で原産品に対する税関手数料の撤廃を規定しており、メキシコは1999630日以降、NAFTA原産品についてDTAを徴収していない。EUメキシコFTAの場合は、第39項に基づき従価方式による手数料の徴収を禁止しており、同FTAの原産品の場合は1申告当たり287ペソの定額制のDTAが徴収されている。日本メキシコ経済連携協定(日墨EPA)の場合は税関手数料について特に規定していないため、日墨EPA原産品については一般の輸入品と同様にCIF価額の0.8%が課税されている。なお、輸出向け製造・マキラドーラ・サービス業振興プログラム(IMMEX)などを用いた一時輸入の場合は、原産国にかかわらず1申告当たり287ペソの定額が徴収されている。

表1 確定輸入の税関手数料(2016年)

35,875ペソ超える貨物は手数料軽減>

 TPP2144項は、加盟各国に従価による税関手数料の徴収を禁止している。メキシコはTPPの非原産品については、協定発効後5年間は同項の適用を留保している(5年間は現行手数料体系を維持できる)が、少なくともTPPの原産品については協定発効時にEUメキシコFTA同様の定額制のDTAとなる。

 

 CIF価額の0.8%が定額の287ペソ(2016年時点)を上回るのは、税関評価額が35,875ペソを超える場合だ。つまり、1申告当たりの税関評価額が同金額を上回る確定輸入の場合は、これまでよりもDTAが割安になる。従って、TPP発効後は同じ日本産品であっても、日墨EPAではなくTPPの原産品としてメキシコで輸入申告することにより、DTAの負担を軽減することが可能だ。

 

<日本との間でも原産地の事前教示が可能に>

 メキシコの貿易実務に及ぼすTPPの効果が期待される制度としては、事前教示制度もある。TPP53条は、各加盟国に自国への輸入に先立ち、自国の輸入者あるいは他の加盟国の輸出者あるいは生産者の書面による要請がある場合には、次の事項に関する書面による事前の教示を行うことを定めている(書面による要請から少なくとも150日以内に回答することが義務付けられている)。

 

a.関税分類(HSコード)

b.関税評価の基準の適用(課税標準価格の計算方法)

c.協定の原産地規則に基づく原産品であるかどうか

d.加盟国が決定するその他の事項

 

 メキシコでは、関税分類に関する事前教示については、メキシコが締結する各FTAや貿易協定の規定にかかわらず国内法である税関法第47条で定めており、「法的照会」と呼ばれている。当局は法的照会に対し、税関法48条に基づき4ヵ月以内に回答することとなっている(4ヵ月たっても回答がない場合は、事業者が想定するHSコードが正しいものと見なされる)。

 

 関税評価の基準や原産品かどうかについての事前教示としては、連邦税務通則法(CFF)の第34条を根拠法とする法的照会の制度がある。同制度では、現実的かつ具体的な事象について利害関係者(輸出入業者や納税者)が税務当局の見解を求める場合のみ、当局は書面で回答している。回答期限は要請受理から3ヵ月以内だ。ただし、国税庁(SAT)税関総局のホルヘ・ロドリゲス税関対応・国際問題第3課長によると、原産品かどうか、あるいは関税評価基準の事前教示をSATが行うのは、FTAなどの国際協定が加盟国に事前教示を義務付けている場合のみで、その対象も各協定が定めているものに限られる(注)。メキシコが締結しているFTAなどのうち、事前教示の規定がある協定およびその対象は表2のとおり。

表2 メキシコが締結するFTA・特恵貿易協定における事前教示の取り決め

 日墨EPAには事前教示の取り決めがないため、日墨EPAの原産品であるかどうかの事前教示をメキシコの当局に要請することはできない。しかし、TPPが発効すれば、原産品かどうかについても事前教示が可能になり、原産品かどうか判断が難しい輸入品についてあらかじめ当局の判断を確認することで実際に支払う税率を事前に確定させることができ、輸入にかかる費用などの計画が立てやすくなる。

 

 事前教示の有効期限については、国際的な慣習では3年(TPPは「少なくとも3年」と規定、日本の税関の事前教示の有効期限も3年)だが、メキシコでは特に国内法で定められていない(無期限)。ただし、CFF34条に規定されているとおり、当局への照会の時点で提出された事実や事象にその後の変化が生じた場合、あるいは関連法規の変更があった場合は、回答内容は効力(メキシコ当局が回答内容に従う義務)を失う。

 

 なお、メキシコの現行制度の対象は関税分類に限られるが、より迅速に事前教示を受けるメカニズムとして関税分類事前教示技術会合の制度がある。これは、通関士などを通じて実際に輸入する税関に対して関税分類の事前教示を求める制度だ。申請から5日以内に当該税関と輸入者の代表などが参加した技術会合が開催され、輸入品のサンプルやカタログなどを分析して、会合の議事録が作成される。議事録に記載される関税分類(当該税関が正しいと判断したHSコード)については、原則として当該税関で行う1回限りの輸入についてのみ適用される。化学品など専門的な検査を行わないと関税分類が判明しないような輸入品については同制度は適用されない。

 

 (注)「TPP原産地証明制度普及・啓発事業」による2016年8月の現地ヒアリング調査。

 

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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