外資系企業の手続きを届け出制に

(中国)

北京発

2016年09月13日

 中国政府は10月1日から、これまで審査許可制だった外資系企業に関する手続きを、ネガティブリストに該当する業種を除いて、届け出制に全面的に移行する。上海市、広東省、福建省、天津市に設立された自由貿易試験区で試験的に先行実施されてきたネガティブリストによる管理モデルを全国に広げるもの。施行に先立ち、商務部は9月3日、「外商投資企業の設立および変更の届け出による管理に関する暫定弁法(意見募集稿)」を発表し、9月22日までパブリックコメントを受け付けている。暫定弁法のポイントについて、専門家に聞いた。

<ネガティブリストによる管理モデルを全国で導入>

 全国人民代表大会常務委員会は93日、外資系企業を対象とした「外資企業法」「中外合資企業法」「中外合作企業法」の「外資三法」と、台湾資本の企業を対象とした「台湾同胞投資保護法」の計4つの法律の改正案を可決した。これまで自由貿易試験区で試験的に実施されてきた外資系企業の投資前の内国民待遇と、特別管理措置(ネガティブリスト)による管理モデルを全国で導入するためのもので、101日から施行する。

 

 改正法の執行に向けて、商務部は93日、外資系企業の設立や登記変更の届け出を規定した「外商投資企業の設立および変更の届け出による管理に関する暫定弁法(意見募集稿)」(以下、暫定弁法)を発表し、922日までパブリックコメントを受け付けている。これまでの手続きとの違いなど暫定弁法のポイントについて、黒田法律事務所の鈴木龍司・弁護士と鄭郁・中国弁護士に聞いた。

 

<商務部門への届け出は営業許可証発行後30日以内>

○審査許可制から届け出制へ

 現在、外資系企業の設立、変更、終了については全て商務部門の審査許可を受ける(以下、審査許可制)必要がある。暫定弁法によると、今後は、外資系企業がネガティブリストに該当しない場合には、商務部門に届け出をする(以下、届け出制)だけでよく、商務部門の審査許可を受ける必要がなくなる(暫定弁法第2条、第5条、第6条、第9条)。なお、ネガティブリストに関係する場合には、依然として現行の審査許可制に従って処理することとなる(暫定弁法第2条、第10条)。

 

○手続きの変更

 現在、外資系企業の設立、重要事項の変更、終了については、全て先に商務部門の審査許可を受け、商務部門の発行する許可に関する返答書、許可証書を取得してから、工商部門で工商登記手続きを行う必要がある。暫定弁法によると、外資系企業を設立する場合は、営業許可証の発行前、または営業許可証の発行後30日以内に、届け出を行えばよくなる(暫定弁法第5条)。

 

 外資系企業に経営範囲や法定代表人など届け出事項の変更が生じた場合、外資系企業の最高権力機関が変更の決議を下した時を変更事項が発生した時とし(ただし、法律・法規に外商投資企業の変更事項の発効条件について別段の要求がある場合には、相応する要求を満たした時を変更事項が発生した時とする)、変更事項の発生後30日以内に届け出を行えばよいことが規定されている(暫定弁法第6条)。

 

 現在は、外資系企業の最高権力機関が下した決議は、商務部門の審査許可を受けなければ効力を生じない。つまり、商務部門の許可を受けなければ決議された事項を実施することはできないが、暫定弁法の上記規定によると、原則として、外資系企業は先に最高権力機関が下した決議を実施し、その上で商務部門に対して決議事項の届け出を行うことができるようになる。

 

<手続き簡素化も日常的な監督管理は強化>

○手続きの簡素化

 審査許可制が実行されている現在の状況では、外資系企業は設立、重要事項の変更、終了に当たり、書面の申請資料を商務部門に提出して審査許可を受け、審査許可に合格してから、商務部門で許可に関する返答書、許可証書を受領しなければならない。

 

 暫定弁法によると、届け出制においては、インターネットを通じて関連資料を提出し、届け出が済めば、商務部門で届け出済み証明書を受領するだけでよくなる(暫定弁法第7条、第11条、第12 条)。

 

○許可証書の変更

 審査許可制が実行されている現在の状況では、商務部門は外資系企業に許可証書を交付しているが、暫定弁法によると、届け出制においては、商務部門が外資系企業に許可証書を発行することはなくなり、届け出済み証明書(原文は「備案回執」)の発行へと変更となる(暫定弁法第9条、第12条)。

 

○日常的な監督管理の強化

 暫定弁法では、外資系企業に対する商務部門の監督管理方法および外資系企業の法的責任が明確にされている(暫定弁法第3章、第4章)。例えば、商務部門は抜き取り検査、通報に基づく検査などの方法を通じて、外資系企業に対し日常的な監督管理を行うことが規定されている(暫定弁法第15条、第16条)。

 

 審査許可制から届け出制へと制度が変更されることにより、外資系企業にとって参入条件は引き下げられるものの、日常的な監督管理は強化される。また、届け出義務を怠ったり、審査許可を経ずに、ネガティブリストに該当する業種の投資経営活動を行ったりするなど暫定弁法の規定に反した場合には、3万元(約45万円、1元=約15円)を上限に、違法所得の3倍の制裁金を科すことなども規定されている。

 

(日向裕弥)

(中国)

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