解雇できる事由を就業規則で明確に-天津で労務問題セミナー開催(2)-

(中国)

北京発

2016年08月26日

 ジェトロが天津で開催した労務セミナー報告の後編。高井・岡芹法律事務所の五十嵐充弁護士が、就業規則の解雇や懲戒処分の規定などについて解説した。質疑応答とともに紹介する。

<解雇できるのは労働契約法で定めた事由のみ>

 就業規則の懲戒処分と解雇の規定については、読む人によって判断がぶれない客観的な規定になっているかが、就業規則見直しのポイントになる、として五十嵐弁護士は次のように解説した。

 

 会社が労働者を解雇できるのは、労働契約法で定めた解雇事由に該当するときだ。労働契約法第393号では「重大な職務怠慢、私利のための不正行為があり、使用者に重大な損害を与えた場合」に使用者が労働契約を解除することができると規定している。しかし「重大な損害」という表現は抽象的だ。労働争議を避けるために、就業規則に「次の各号に定める事由のいずれか1つに該当する場合、重大な職務怠慢、私利のための不正行為があり、使用者に重大な損害を与えたものと見なし、労働契約を即時解除する」と明記して、自社の規模や状況に応じた解雇の基準を具体的に規定しておくことが望ましい。

 

 同様に労働契約法第392号では、「使用者の規則制度に著しく違反した場合」に使用者が労働契約を解除できると規定している。「使用者の規則制度に著しく違反した場合」についても、就業規則に「次の各号に定める事由のいずれか1つに該当する場合、会社の規則制度に著しく違反したものと見なし、労働契約を即時解除する」と、具体的に規定しておく必要がある。

 

<職務変更で賃金減少があり得ると明記>

 能力不足の社員を解雇する場合には、労働契約法第402の規定により、企業はまず研修または所属部署の調整を行う義務がある。また同規定では、労働者が業務に不適任であることが解雇の条件となっている。「不適任」の定義があいまいであることから、客観的な評価が可能な制度を導入するなどして定義を明確にして、「不適任」の証拠を丁寧に収集する必要がある。

 

 労働者が業務不適任である場合や、労働契約締結時の客観的状況に重大な変化が生じて労働契約の履行ができなくなり、しかも労働者との協議で労働契約の変更について合意できなかった場合は、配置転換できる。しかし、法律上の配置転換は必ずしも賃金減額とは結び付かないので、職務手当や等級表を作成するとともに、就業規則で職務変更に伴って賃金が減少することがあると明記しておくとよい。

 

 日本では労使交渉の最後の手段がストライキだが、中国では使用者に話を聞いてもらうために労働者がストライキを起こす傾向が強い。人員整理をするに当たっては、従業員にしっかり説明するなど誠実な交渉態度が必要となる。

 

<懲戒処分対象行為は注意し続ける姿勢が重要>

 講演後の参加者からの主な質問と五十嵐弁護士の回答の概要は以下のとおり。

 

問:有給休暇の希望取得日を会社の都合で変更できるか。会社が労働者の有給取得日を指定できるか。

 

答:中国の労働法では、有給休暇の取得日に関して会社の裁量が大きい。理論上は会社の都合で労働者の有給休暇取得日を変更、指定できる。また、会社が取得日を指定して、労働者本人が当該日の取得を拒否した場合、仮に有給休暇が未消化となっても買取額は100%となる。

 

問:代休は休日に対してのみ与えることができるものか。

 

答:他の残業に対しても与えることは可能だ。ただ、法令上は休日に対してのみ代休を予定している。他の残業に対して与える場合、法律とは関係なく会社が特別に代休を付与することになる。休日労働に対して代休を与えた場合には残業代の支払いは不要だが、その他の残業に対して代休を与えた場合は残業代の支払い義務が免除されないことに注意が必要だ。

 

問:中国の従業員は懲戒処分の対象となる行為をしたことを否定する。証拠を残すことが難しく解雇するのも難しい。

 

答:まずは、会社として従業員に注意をし続ける姿勢を取ることが重要。注意の内容を録音するのも証拠を残す方法だが、実際はケース・バイ・ケースだ。

 

(日向裕弥)

(中国)

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