イタリア中部地震、国内産業に打撃も-首相が被災地に非常事態宣言-

(イタリア)

ミラノ発

2016年08月31日

 8月24日未明にイタリア中部でマグニチュード6.2の地震が発生し、8月29日時点で死者290人と報告されるなど、大きな被害が出ている。ただ、進出日系企業からは、直接的な物的・人的被害は報告されていない。現地メディアでは、日本における地震被害拡大防止に関する各種技術やノウハウについて多く言及している。

<日系企業への直接的な被害はなし>

 今回の地震が発生したのは、824日午前336分。ジェトロが把握している限りでは、829日時点で、イタリアに進出している日系企業における直接的な物的・人的被害はない。被害の多い地域近辺に立地している日系企業もあるが、直接的な被害の発生は避けられたとのことだ。また、在イタリア日系物流企業によると、物流面でも通常の営業活動に特段、影響は出ていない。大都市間を結ぶ主要高速道路は被災地を通っておらず、緊急車両が優先されているものの、通常どおりの通行が可能だ。ただし、被災地への集荷・配送については、何らかの制限・影響を受けることが予想される。イタリア郵便(ポステイタリアーネ)は829日現在、被災地での郵便事業を移動郵便局で実施しており、物流的な障害は取り除かれている。

 

<農業と観光業に大きな影響>

 国内産業への被害としては、農業などに影響が出ている。農業団体コルディレッティによると、約1,000軒の農場が被害を受けている。また、被災地の観光業も大きな打撃を受けるものとみられる。一方、金融市場への影響は限定的で、イタリア証券取引所上場の主要銘柄で構成される株価指数FTSE MIBは、地震直後の824日朝の取引開始直後に急落したが、その後回復し、地震前日と同程度の水準に落ち着いた。

 

<首相は復興を約束、経済発展省が基金から拠出>

 今回の地震および被害を受け、マッテオ・レンツィ首相は、被災地に非常事態を宣言した。被災地に対する免税措置を発表し、被害者の救済、被災地の復興を約束した。経済発展省は、国家の緊急事態のための基金から、当面の事態への対処として23,400万ユーロを拠出する、と発表した。民間でも、大企業を中心に援助に動いている。フィアットクライスラー・オートモービルズ(FCA)などはイタリア赤十字と協力し、従業員による募金などを実施する。また、FCAは被災者に対して、購入車のローンの停止や、破損した車両の代替車の購入のための前金・利子の撤廃なども決定している。

 

<現地メディアは日本の地震対策の手法に着目>

 地震での被害規模が明らかになった直後から、数多くの現地メディアが日本の地震発生時の被害拡大防止策について言及している。地震についての教育や情報の周知に着目したものが多く、例えば、学校・職場での防災・避難訓練教育、「防災の日」など定期的な避難訓練期日の制定、避難図・経路の整備と周知、避難時の必要品をまとめたバッグの販売や個人宅での準備など、個人レベルで実施する地震対策が紹介された。また、関係機関への災害情報の共有や伝達のノウハウ、災害予知に関する情報システムやインフラへの投資など、日本での地震被害抑制に関する有形無形のノウハウやサービス、製品などに関する報道が増えている。

 

<在イタリア日本人社会も支援を表明>

 826日には、在イタリア日本大使館が被災者支援のための募金を呼び掛け、日系企業や在イタリア日本人社会による支援の表明があった。一方、日本のイタリア大使館では被災者のための義援金受付口座を開設した。このほかにも、多くの募金活動が立ち上がっている。

 

(山内正史)

(イタリア)

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