再投資控除、利便性は高いが利用基準は厳格化-日系企業対象にビジネスセミナー開催-

(マレーシア)

クアラルンプール発

2016年08月16日

 ジェトロは7月26日、在マレーシア日系企業を対象に「マレーシアビジネスセミナー」をクアラルンプール市内で開催した。ラッセルベッドフォードマレーシアの加藤芳之代表取締役が「再投資控除と新会計基準」と題して講演を行い、再投資控除の延長は企業にとって利便性は高いものの、条件が厳格化され活用するには適切な準備が必要になる、新会計基準では企業が主たる活動を行う経済環境で使われる通貨での記帳が求められる、などと説明した。

2018賦課年度までに限り再投資控除は優遇延長>

 加藤氏の講演内容は以下のとおり。

 

 再投資控除は、製造業者が設備投資を行う場合の所得税法の優遇措置で、1980賦課年度に導入された。法人の法定所得の70%を控除限度額として、当該プロジェクトに対する資本的支出の60%を法人の課税所得から控除することができる。優遇措置は申請から原則15年間で終了になるが、2016賦課年度から2018賦課年度の3年間に限っては、既に終了している、あるいは途中で終了する場合であっても、特別に優遇措置が受けられることとなった。

 

 製造業者に対する優遇措置としては、投資促進法で定められたパイオニア・ステータスや投資税額控除(ITA)があるが、これらの措置はマレーシア投資開発庁(MIDA)への事前申請と認可が必要となる。一方、再投資控除は税金申告書により内国歳入庁(IRB)へ申請する。事前申請が不要の控除なので、企業にとっての利便性は高く、今回の延長措置のメリットは大きい。

 

<再投資控除の適格要件は4類型>

 再投資控除を利用する要件として、一定の要件を満たすマレーシア居住法人であること、適格プロジェクトであること、操業開始から36ヵ月以上経過していること、などがある。適格プロジェクトとは、製品もしくは同業種内の関連製品の製造に関する事業活動について拡張、近代化、自動化されるもの、もしくは、同業種内の関連製品を製造することにより現行の事業活動を多様化するものの、4類型に整理される(表参照)。

表 再投資控除における優遇税制享受のための「適格プロジェクト」

 IRBは拡張、近代化の証明について、「実際の生産量の増加」「製造時間の短縮」「製造コストの低下」「労務費の削減」などの事実を提示しなければならないとの見解を示しており、プロジェクト文書、予算および資金調達計画書、取締役会・株主総会決議書などにより実証する必要がある。

 

 2016年度税制改正では控除対象がより厳格化された。「製造」の定義は、形や大きさを変えるだけでなく、性質または品質を変えることにより新たな製品を作ること、「プラント、機械」の定義は直接製造活動に関わる装置、機械とされた。また、再投資控除取得後5年以内に資産を除却した場合には、控除が取り消されることとなっている。今回の改正により、「対価の有無を問わず、売却を含む一切の譲渡」と定義されていた「除却」には、新たに「使用の中止」が追加された。

 

<新会計基準では「機能通貨」で記帳>

 マレーシアの会計基準にはMFRSMalaysian Financial Reporting Standards)とPERSPrivate Entity Reporting Standards)があった。上場企業はMFRSを、非上場企業はどちらかを選択できる。MFRSは一部の例外を除き、国際財務報告基準(IFRS)とほぼ同様の内容になるが、PERSは国際会計基準(IAS)の改正、IFRSの変更点が反映されないままとなっていた。そこで、201611日に新会計基準が適用されたことで、多くの日系企業が採用していたPERSは廃止され、中小企業向け国際財務報告基準(IFRS for SMEs)とほぼ同様の内容の新会計基準MPERSMalaysian Private Entities Reporting Standard)が適用されることとなった。今後は、MFRSおよびMPERSが会計基準となる。

 

 新会計基準の大きなポイントとして、「機能通貨」による記帳を求められる点にある。機能通貨とは、その企業が活動を行う主たる経済環境の通貨のことだ。PERSでは会計処理においてマレーシアのリンギが採用されていたが、新会計基準では、(1)商品およびサービスの販売価格に重要な影響を与える通貨(販売価格を表示し、決裁されるときの通貨である場合が多い)、(2)商品およびサービスの販売価格決定に重要な影響を与える競争要因や規制が存在する国の通貨、(3)商品およびサービスを提供するための人件費、材料費、その他の費用に重要な影響を与える通貨(費用を表示し決裁される通貨である場合が多い)の3点に基づき、機能通貨を決定する必要がある。

 

 上記3点でも機能通貨が決定されない場合には、さらに細かな基準によって決定される。これによって、これまでの記帳通貨がリンギからドルあるいは円などの他国通貨に変わる可能性もある。これまでMFRSを採用していた企業は機能通貨による記帳を行っていたので影響はないが、PERSを採用していた多くの日系企業は記帳通貨の変更を余儀なくされる可能性が高い。政府は新基準を導入したものの、マレーシア会社登記所(CCM)に提出する決算書や、税関当局に提出する物品・サービス税(GST)申告書はリンギ建てで表示しなければならず、省庁間でも統一できていない状況にある。

 

(森彩子)

(マレーシア)

ビジネス短信 7ac158fb0210a0d0