関税や付加価値税の改正で産業を保護-2016/2017年度予算案と税制改正案(3)-

(ケニア)

ナイロビ発

2016年08月22日

 2016/2017年度の予算案・税制改正案の連載最終回は、税制改正案のうち付加価値税(VAT)、関税、その他のポイントを解説する。財務省は製造業や観光業の成長、ビジネス環境の改善を目的として税制改正に着手している。

<新方式の輸入関税で鉄鋼メーカーを保護>

 ロティチ財務長官は68日の演説で、製造業の保護や強化を目的として、関税や付加価値税(VAT)の改正を提案した(表1参照)。

表1 主な税制改正案

 日本からケニアへの輸出額2位の鉄鋼製品については、中国製の安価な製品の輸入により、地場の鉄鋼メーカーが打撃を受けているとして、同長官は、1トン当たりの鉄鋼製品に対し、25%の関税率か200ドルのいずれか高い金額を輸入関税とする方針を示した。当初は鉄鋼製品の定義があいまいだったものの、630日に東アフリカ共同体(EAC)が公示したことにより適用品目が明確になった。それによると、クラッド、めっき、被膜が施されている熱延鋼板および加工された鉄や非合金鋼の棒などが対象となる。また、表面加工処理されていないフラットロールのうち、10ミリ以下の非コイル状の切り板については、関税率が0%から10%に引き上げられている。

 

 日本からケニアに輸出されている鉄鋼製品は主に亜鉛めっき鋼板の原板や建材用小径管(パイプ)の母材となる熱延鋼板、ブリキ、食缶やグラスボトルの王冠の母材として使用されるクロム被膜された鋼などだ。今回の税制改正ではこうした品目は対象外となっており、日本からの鉄鋼製品の輸出へのマイナスの影響はほとんどないとみられる。

 

 ケニアでソフトドリンクなど飲料の生産が増加していることから、政府は国内におけるアルミ製品の製造を促進するため、その原料となるアルミ板などの関税率を25%から0%に引き下げる考えだ。同時に、アルミ缶の関税率を10%から25%に引き上げるとしている。また、繊維製品については、欧米やエジプトなどからの安価な競合品の輸入により、国内産業が打撃を受けているとして、輸出加工区(EPZ)で生産された衣料品や靴を国内で販売する場合のVATを撤廃する方針だ。このほか、畜産業を振興するため、動物飼料メーカーが購入する動物飼料の原料のVATも撤廃するとしている。

 

<観光客誘致を目的にVAT撤廃も>

 不振にあえぐ観光業の振興について、政府は特別観光振興基金(STPF)を創設し、その原資を捻出するため、海外航空券のサービスチャージを従来の40ドルから50ドルに、国内航空券のそれを500ケニア・シリング(約500円、Ksh1Ksh=約1.0円)から600Kshに引き上げる考えだ。他方で、観光客誘致を目的として、国立公園の入園料やツアーオペレーションサービスに関するVATを撤廃する方針だ。

 

 環境保護の促進やビジネスコストの低減を目的とした税制改正も提案している。燃料としてのまきや炭の使用を抑制するため、調理用の液化石油ガス(LPG)についてはVATを撤廃する一方で、ガスや電気などを使用するストーブの関税を25%から10%に引き下げる方針だ。

 

 ビジネスコストの低減を目的として、国家環境管理局(Nema)が課すインフラ開発プロジェクトなどの環境影響評価料(プロジェクト費用の0.1%)を撤廃する方針だ。また、契約金額の0.5%だった国家建設局(NCA)が課す建設ライセンス申請費も撤廃する。

 

 道路の舗装は全ての経済活動にとって重要だとして、肥大する道路のメンテナンス費用を賄うため石油製品に対する道路メンテナンス税を12Kshから18Kshに引き上げる。石油製品の小売価格を統制するエネルギー規制庁(ERC)は、715日の石油製品価格の改定時にこの改正を反映させた。

 

<低所得層や若年層に配慮>

 ロティチ長官はまた、生活費の上昇から低所得者層を守り経済成長の恩恵を分け与えることを目的として、15年ぶりに所得税法を改正し、個人所得税を改めると発表した。これにより、所得額に応じた5段階の累進課税の下限額と所得税の税額控除がそれぞれ10%引き上げられる(表2参照)。10%の所得税率が適用される最低所得層に属する労働者の賞与、残業代、退職金は免税となる。財務省は201711日の施行を目指すとしている。

表2 個人所得税の改正案

 そのほか、低所得者向け住宅を1,000戸以上建設するデベロッパーの法人税を30%から20%に引き下げることで、低所得者向けの住宅を増やす考えだ。ケニアでは都市部を中心に毎年20万戸の住宅需要が発生するものの、新規に建設されるのは5万戸のみで、15万戸が不足しているとされる。なお、同減税が建設期間中に適用されるのか、完工年にのみ適用されるのかは不明のままだ。また、民間企業の若年雇用促進のため、10人以上の大学卒業生を研修生として雇用した企業に対して、その経費の1.5倍を法人税から控除することも提案している。毎年513,000人の卒業生が労働市場に参入するものの、統計に表れる正規の新規雇用は128,000人にとどまっている。

 

 予算案と税制改正案は今後、議会の審議などを経て成立する見込みだが、一律20%とされた組み立て自動車の物品税などについては、業界団体などが撤回を求めて強硬に反発しているため、政府の対応が注目される。

 

(島川博行)

(ケニア)

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