外貨借り入れや貿易決済などで進む規制緩和-外貨管理制度の最新動向セミナーを開催-

(中国)

広州発

2016年08月26日

 ジェトロは7月27日、広州で中国における外貨管理制度の最新動向に関するセミナーを開催した。中国では2012年以降、人民元の国際化に向け、徐々に外貨管理の規制緩和が進められている。今回は深センNAC名南コンサルティングの浜田かおり氏が、口座、外貨借り入れ、貿易決済などでの規制緩和の動向を紹介した。

<銀行口座の開設手続きが簡素化>

 中国では法人用の銀行口座は、外貨用と人民元用に大別される。うち、前者については、貨物・サービスの貿易取引に関する入出金に利用する経常項目口座と、企業設立前の活動費や資本金、国外からの借入金を入金する資本項目口座に分けられる(図参照)。資本項目口座は、資金使途により、前期費用口座、資本金口座、資産現金化口座、保証金口座、借入口座の5種類ある。

図 外貨管理の分類

○直接投資項目

1)前期費用口座:外資企業設立前の活動費用を出し入れ。設立後は、資本金口座に統合。

2)資本金口座:出資金(現金)を出し入れ。

3)資産現金化口座:中国国内外の資産の譲渡対価外貨を入金。

4)保証金口座:保証金の支払いに必要な外貨を入金。

 

○対外債務項目

5)借入口座:対外債務の登記後の借入金を入金。

 

 なお、直接投資項目の4口座については2013年以降、外貨管理局での手続きが不要となり、銀行での申請のみで開設が可能となった。

 

<資本金口座での元転規制が緩和>

 資本金の使途は、日常の企業経営に関連した支出に限定されてきたが、近年は資本金口座内の資金を、人民元建て借入金や外債(注1)の返済に充当することが可能となっている。

 

 企業は外貨建ての資本金を元転(人民元へ両替)するに当たり、以前は必ず外貨管理局に対する証憑(しょうひょう、事実を証明する根拠となるもの)の提出と登録が必要だった。規制緩和を受け、2012年には銀行に対し証憑の提出と事前登録を行えば、元転が可能となった。201561日以降は、銀行が事後に証憑を基に元転資金の使途の真実性などを審査するが、企業は銀行で登記さえすれば、実需に対する元転が随時できるようになった(注2)。

 

 他方、証憑の審査が不要とされる備用金(手元の小口現金)の元転についても、以前は1回当たり5万ドル、毎月計10万ドルに制限されていたが、20166月からは毎月計20万ドルへと限度額が拡大された。また、2015年以降は、売買取引に関して急きょ人民元が必要となった場合、規定で求められる証憑がなくても、銀行で取引の真実性が確認できれば、先に支払いを履行し、その後20営業日以内に証憑を提出すれば、事前の元転が認められるようになった。

 

<外貨借入枠の制限も緩和>

 外債に関しては、中国人民銀行(中央銀行)が20161月に自由貿易試験区内で試行してきた外債管理モデル(以下、新モデル)が、5月から全国で施行されるようになった。同モデルは、不動産会社を除く内資・外資企業が対象で、香港など中国本土外から借り入れるオフショア人民元と外貨が管理の対象だ。

 

 企業は従来、投資総額から資本金額を差し引いた額を借り入れ可能(投注差モデル)だったが、前年度の監査報告書に基づく純資産額(資本金額)の1倍(比率は変更される可能性あり)を外債上限額とする新モデルと、投注差モデルのいずれかを選択することが可能となった。

 

 新モデルでは、外資に加え内資企業も、外貨借り入れが可能となった。また、外債上限額が純資産をベースとするため、投資総額が300万ドルの場合、最低資本金比率は70%以上とされ、210万ドルが新モデルにおける外債上限額となり、従来の投注差モデルの90万ドルに比べ、理論上は借入額が大幅に引き上げられたことになる。

 

 さらに、投注差モデルの場合、返済期限1年未満の短期外債を除き、借り入れは1度に限定されるが、新モデルでは借り入れ回数の制限は設けられておらず、返済の進捗により残債が減少すればその分、再度の借り入れが可能だ。ただ、外債借入残高に返済期限、通貨などのリスク要因を加味した「リスク加重残高」が外債上限額を超過できないこと、外債上限額は純資産ベースなため、変動する可能性がある点には注意が必要といわれる(表参照)。

表 リスク加重残高計算の因数

 例えば、純資産額が600万元(約9,000万円、1元=約15円)、返済期限3年で新モデルにより外貨を借り入れたい場合、リスク加重残高計算のリスク因数によって借り入れ可能な額を計算すると、以下のようになる。

 

A)外債上限額:600万元×1倍=600万元

B)為替レート:1ドル=6.5元で仮定

C)期限リスク転換因数(中長期):1

D)類別リスク転換因数:1

E)為替リスク換算因数(外貨):0.5

 

借入可能額=A÷〔(D×CE)×B〕=6,000,000÷〔(1×10.5)×6.5〕≒615,000

 

 上記の場合、借り入れ可能な外債の限度額は約615,000ドルとなる。

 

<貿易外貨決済の手続きが大幅簡素化>

 貨物貿易における外貨決済については、以前は輸出代金の受領と輸入代金の決済時にインボイスごとに通関データと外貨の入出金状況を照合する核銷(かくしょう)制度が採用されていた。

 

 20128月以降は手続きが大幅に簡素化され、通関データと貨物代金決済データの総量をオンラインで照合する、貨物貿易外貨モニタリングシステム(貨物貿易外貨監測系統)が導入されている。企業は貿易開始前に外貨管理局にいったんA類企業として登録されたのち、規定違反などの有無を踏まえ、A類、B類、C類(注3)に分類される。

 

 システム上では、通関申告額と決済額で過去12ヵ月の総量差額がモニタリングされ、一般に、企業所在地の指標値から50%以上乖離していると、外貨管理局は企業に対し説明および根拠資料の提出を要求し、非合理的と見なされると、立ち入り検査が実施される可能性もある。違反行為によりB類、C類に分類されると、外貨管理局での事前の登記手続きや取引ごとの資料提出が必要となるため、注意が必要だ(注4)。

 

(注1)中国本土企業が本土域外の国・地域から調達する資金のこと。

(注2)外貨管理局は自由元転比率を設定しており、この比率は現在100%で、実需(支払いの必要)があれば、企業は外貨資本金の全額を随時、元転することができる(比率は今後、調整される可能性がある)。ただし、資本金全額を一括(100%)元転し支払う場合と、支払い待ち口座にある資金(元転済み資金)を全額支払いに回す場合には、事前に全額分の証憑が必要となる。

(注3)企業の過去12ヵ月分のデータについて、異常値があれば、外貨管理局から照会があり、説明が非合理的、規定違反と判断されれば、B類、C類へ降格される。

(注4)例として、B類の場合、決済時に輸出入貨物の通関単(通関証明書)、輸出入契約書類など銀行での審査に必要な書類が増える。C類では、貿易取引に関する送金・入金ごとに外貨管理局での登記手続きが必要となる。

 

(粕谷修司、汪涵

(中国)

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