EU内での政治的影響力の低下を懸念-英国の離脱問題でPISMアナリストに聞く-

(ポーランド、英国)

ワルシャワ発

2016年08月04日

 ポーランドは、ユーロへの見方だけでなく、対ロシア政策、域内市場政策などさまざまな点で、英国とEU内で共通の立場を取っていた。英国のEU離脱は、経済的だけでなく、政治的な打撃も大きい。他方、英国からの企業移転の可能性には期待も生まれている。英国のEU離脱のポーランドへの影響について、ポーランド国際問題研究所(PISM)アナリストのパトリク・トポロフスキ氏に聞いた(7月15日)。

<対ロ制裁、早期解除される可能性も>

問:まず英国の国民投票(623日)の結果についての感想は。

 

答:率直に言って、大惨事だ。ポーランドと英国は経済的に強く結び付いている。ポーランドにとって、英国は(ドイツに次ぐ)第2の輸出市場。ポーランド人も多数、英国で働いており、特に食品を中心に、これらのポーランド人が需要を喚起している側面もある。英国離脱によって関税が引き上げられたり、ポーランド人が英国から引き揚げさせられたりすれば、市場としての英国の地位は揺らぐことになるだろう。食品輸出が減り、農家が影響を受ける可能性がある。

 

 経済的には、EU補助金が減ることもポーランドに影響を及ぼす。英国の離脱により、EU予算は1割程度減少するとみられる。ポーランドのGDPEU補助金が占める割合は3%に上る。補助金が減ると、GDPが最大で0.5ポイント押し下げられる可能性がある。また、主にポーランド人労働者による英国からの海外送金は年間約10億ユーロに達しているが、これも減る可能性がある。

 

 さらに、政治的な影響も懸念される。今回の英国離脱により、ユーロ圏のみ統合の深化を加速させていく可能性もある。これは(ユーロを導入していない)ポーランドにとって望ましいことではない。

 

問:ポーランドと英国は対ロシア政策でも歩調を合わせていたが。

 

答:対ロ制裁の継続は、ポーランドにとって最も重要な課題だ。フランス、イタリア、スペインのほか、ある程度はドイツも、ロシアへの制裁の解除に傾いている。(同制裁の継続を求める)英国とポーランドなどが歩調を合わせ、現行の制裁は20171月末まで延長されたが、それ以降は延長がされないどころか、期限を待たずに解除される可能性も否定できない。

 

<在英企業が移ってくるならプラス効果に>

問:ポジティブな側面はあるか。

 

答:在英企業がポーランドに移ってくる可能性はある。また、英国で働いていたポーランド人には専門家もおり、こうした人材が戻ってくることで、投資環境としての魅力は増す。例えば、既に数多くの企業が進出しているシェアードサービスセンター(SSC)/ビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)の分野は、これによる恩恵を受けるだろう。

 

 ポーランドの金融市場にも、プラスの面はあるかもしれない。ロンドン証券取引所とフランクフルトのドイツ取引所の合併は、英国の国民投票後も予定どおり進めるとされているものの、見直しが必要になることは間違いない。仮に合併が予定どおり実現していたら、ワルシャワ証券取引所(WSE)は相対的な地位の低下が進んでいたとみられる。

 

<トゥスク欧州理事会常任議長の再選は困難か>

問:ポーランドにとって望ましい英国とEUとの関係のシナリオは。

 

答:欧州経済領域(EEA)の地位だけでなく、「EEAプラス」がポーランドにとっては一番望ましい。つまり英国が引き続き、EUに対して政治的影響力を発揮するということだ。対ロ政策以外にも、域内市場やサービス、資本市場といったEU共通市場に関する政策では、英国もポーランドも自由主義を志向しており、多くの点で立場は共通していた。労働市場でさえも、移民問題がここまで大きくなる前は、労働市場の柔軟性確保という観点から、共通の立場を取っていた。スイスのように個別協定を結ぶなど、さまざまなシナリオが考えられるが、ポーランドにとっては(政治的影響力も付加した)「EEAプラス」が最善だ。

 

 とはいえ、既に英国は影響力を失いつつある。欧州委員会の金融安定・金融サービス・資本市場同盟担当だったジョナサン・ヒル委員(英国)の辞任後、この担当はバルディス・ドムブロフスキス副委員長(ラトビア)に割り当てられた。後任の委員として任命される見込みのジュリアン・キング氏(英国)には、担当が割り当てられないか、実質的な権限を持たない名ばかりの担当を割り当てられる可能性も指摘されている。

 

問:トゥスク元首相の欧州理事会常任議長への就任(201412月)後、EUでのポーランドの存在感は高まっていたが。

 

答:トゥスク議長は任期中(20175月末まで)にこのような事態が起きてしまったことで、再選は難しいかもしれない。

 

 ポーランド政府は、英国の国民投票翌日に開かれたEU原加盟国6ヵ国の外相会議や、ユーロ圏の統合深化といった動きを警戒している。EU内での影響力を維持するため、カウンターバランスとしてビシェグラード4ヵ国(V4:ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー)、またユーロ圏以外の国とアライアンスを組むなどの外交に取り組んでいる。

 

(牧野直史)

(ポーランド、英国)

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