離脱通知までの準備に一定の理解引き出す-メイ首相のEU加盟国歴訪(1)-

(英国、ドイツ、フランス)

ロンドン発

2016年08月04日

 メイ首相はEU離脱交渉に関する英国の考え方を説明するため、EU加盟各国を歴訪している。ドイツ、フランスからは、離脱通知までに準備期間を設けることで一定の理解を引き出したが、移民の流入制限や、モノとサービスのEU単一市場へのアクセスをいかに両立させるのか、あらためて課題を突き付けられることとなった。連載の前編。

<単一市場へのアクセスが交渉の焦点>

 EU離脱交渉で注目されるのは、2年間の交渉開始を告げるリスボン条約第50条に基づく離脱通知時期だ。交渉期間が限られることから、英国としては離脱通知を少しでも遅らせ、交渉開始までに根回しを進める意向だ。一方で、他の加盟国による「離脱ドミノ」や市場の不透明性が高まることなどを回避すべく、EUは英国に対して可及的速やかな通知を求めている。

 

 交渉で焦点となりそうなのは、EU単一市場への英国のアクセスだ。同市場はモノ・人・サービス・資本の4つの移動の自由により成り立つが、英国は移民の流入を制限(人の移動の自由を制限)しつつ、モノとサービスの移動では可能な限りEU単一市場にアクセスできることを望んでいる。一方のEU側は、今後の英国との関係は権利と義務のバランスの上に成り立つものであり、単一市場へのアクセスは4つの自由を受け入れることが前提という考えだ。

 

<準備期間を設けることはEUにも利益>

 メイ首相は、EU側のカギを握る各国との対話を進めている。まず、720日には首相就任後初めての外遊先としてドイツ・ベルリンを訪問し、メルケル首相との会談に臨んだ。ここでメイ首相は、離脱交渉には準備が必要であり、準備が整うまで離脱通知はしないとし、2016年内の通知は行わない考えをあらためて強調した。また、国民投票の結果から英国民が移民流入の歯止めを望んでいるのは明らかで、政府として何らかの対応が必要と語った。しかし、移民制限とEUとの良好な貿易条件の確保をいかに両立させるかは検討課題、との認識を示した。

 

 これに対しメルケル首相は、英国がしっかり準備した上で交渉方針を固め、将来のEUとの関係性を明らかにすべきだと語り、それがEUの利益にもなるとした。また、リスボン条約第50条に離脱通知時期の規定がない以上、EUはあくまで英国の出方を待つ立場という考えを示した。しかし、2016年内の通知を行わないとするメイ首相の発言については言及せず、時間の空費は英国民を含め誰も望んでいないとくぎを刺すことも忘れなかったものの、離脱手続きと新たなEUとの関係づくりを並行して進めることも可能だとした。

 

<仏の強硬な姿勢は大統領選までか>

 メイ首相は翌21日には、フランスのオランド大統領と会談した。メイ首相が前日と同様に英国の方針を説明したのに対し、オランド大統領は、英国が準備の時間を必要としていることは十分に理解していると応じた。単一市場へのアクセスについては、人の移動の自由が認められない限り他の3つの自由は認められないと繰り返し、あくまでも4つの自由の全て受け入れることが原則との考え方を示した。オランド大統領のこうした姿勢について、「レゼコー」紙(722日)は「EU懐疑派からの圧力を受け、オランド大統領は20175月に予定される大統領選まで英国に対し強硬にならざるを得ない。その後は、いかなる政権でも姿勢は軟化するため、メイ首相は交渉開始を大統選後まで待つのが得策」とするEU専門家のコメントを紹介している。

 

(佐藤央樹)

(英国、ドイツ、フランス)

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