2016年の実質GDP成長率は1.4%、2017年は1.8%-SECO、英国の国民投票前に予測-

(スイス、英国)

ジュネーブ発

2016年07月08日

 経済省経済事務局(SECO)は英国の国民投票に先立つ6月16日、スイスの2016年の実質GDP成長率を1.4%、2017年を1.8%とする経済予測を発表した。欧州で景気回復の兆しがある一方で、中国をはじめ多くの新興国の経済成長が停滞、スイス経済も輸出産業を中心に回復が遅れ、2016~2017年も緩やかな成長にとどまるとした。英国のEU離脱を選んだ国民投票の結果は、今後のSECOの経済見通しにも影響を与えるとみられる。

EU離脱問題はスイス経済へも影響>

 スイス経団連(economiesuisse)は624日、英国民のEU離脱の選択についてコメントを発表した。最大の懸念は、ユーロおよびポンドに対するスイス・フランの高騰であり、それが輸出産業と観光へ直ちに深刻な影響を与える可能性があるとした。さらに、英国はスイスにとって5番目の輸出先、3番目の直接対外投資先であり、在英スイス企業による雇用者は約10万人に及ぶことからも、英国のEU離脱による両国経済関係への影響に懸念を示した。

 

 英国の国民投票に先立ちSECO616日の発表の中で、英国のEU離脱問題がリスク要因だとしていた。離脱は前例がないだけに、英国とEUの交渉は先行きがみえず、金融市場も不透明化し、世界経済への影響は少なくないとしていた。さらに、以前からスイス経済のリスク要因として、20142月の国民投票で可決された「大量移民制限案」を挙げていたが、英国のEU離脱問題によって同案のEUとの交渉が遅延する可能性が出ている。同案がEUの合意を得られずに施行期限(20172月)を迎えれば、EUとの関係が悪化し、外国企業の誘致などスイスへの投資に悪影響を及ぼすことが懸念されるとしている。

 

<医薬品以外の分野は回復に時間>

 SECO616日、2016年第1四半期実質GDP成長率の発表(61日)を受けて(2016年6月29日記事参照)、2016年の実質GDP成長率を1.4%、2017年を1.8%と予測した(表参照)。20151月にスイス国立銀行(中央銀行)が実施した対ユーロ上限策(1ユーロ=1.20スイス・フラン)撤廃でスイス・フラン高が続いたが、2015年後半以降は経済への悪影響は緩和されてきた。しかし、産業全体をみると、分野間に大きな隔たりがあり、スイス・フラン高の下でも安定的に成長している医薬品以外の分野では、回復に時間がかかるとした。

 

 また、連邦統計局によると、2015年第3四半期以降上昇傾向だった雇用者数は、2016年第1四半期に減少した。これは医薬品以外の産業分野の雇用減を反映している。その結果、スイス全体の失業率は今後上昇するとみられ、2014年の3.2%、2015年の3.3%に対し、2016年は3.6%、2017年は3.5%になるとSECOは見込んでいる。

 

 消費者物価指数(CPI)上昇率については、スイス・フラン高と原油価格の下落が影響し、20149月以降下降していたが、2016年に入ってからはほぼ横ばいで推移している。2014年以降、財の生産価格と輸入価格は消費者物価と同様に推移しているが、2016年第1四半期にはわずかながら上昇に転じている。2015年のCPI上昇率はマイナス1.1%だったが、SECO2016年はマイナス0.4%、2017年には0.3%とプラスに転じると予測している。

表 SECO発表(2016年6月16日)経済予測

<中銀が英国民投票直後に為替介入を発表>

 中銀は616日の経済状況評価で、スイス・フランが依然として過大評価されているとし、政策金利(LIBOR)を据え置き、誘導目標レンジをマイナス1.25~マイナス0.25%、預金金利をマイナス0.75%とすると発表した。また、英国の国民投票直後の624日には、スイス・フランは経済危機時の安全通貨であり、高騰の可能性を考慮して通貨安定に向けた介入を発表した(「ル・タン」紙624日)。現在のところ、スイス・フランは1ユーロ=1.051.10スイス・フランの範囲内で安定的に推移している。

 

 ちなみに、スイス経団連は66日、独自の経済見通しを発表した。チーフエコノミストのルドルフ・ミンチ氏は「対ユーロ上限策撤廃後のスイス・フラン高ショックから産業は回復しつつある」とし、スイス企業による早期対策(生産過程の効率化、投資の多様化、労働時間の割り増し、雇用停止、拠点の海外移転など)と、中銀によるマイナス金利導入を評価した。医薬品および医療機器を除く製造業(機械、金属、繊維、時計など)や観光分野はスイス・フラン高による苦戦が続いているが、2016年から成長分野との差は少しずつ狭まっていくとして、2016年の実質GDP成長率を1.3%、2017年については1.7%と予測した。

 

(ブリショー雅子)

(スイス、英国)

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