人員削減には労働当局や関連企業との事前調整が重要-広州で労務問題セミナー-

(中国)

広州発

2016年07月11日

 ジェトロは6月17日、広州事務所で労務問題に関するセミナーを開催した。進出日系企業の間で事業再編などによる人員削減が増える中、ジェトロ広州事務所の業務委託先である世澤律師事務所の諸韜韜弁護士が人員削減の際の留意点を紹介した。

<人員削減には法的根拠が必要>

 諸弁護士の講演内容は以下のとおり。

 

 進出日系企業の間では近年、高騰する人件費や価格競争の激化などを受け、事業規模の縮小など再編を検討する動きが出ている。

 

 再編に当たっては多くの場合、人員の削減が必然となるが、それには(1)会社の清算、(2)経営不振、(3)経営方式・製品の転換、重大な技術革新などの客観的な情勢の変化、といった法的根拠が必要となる。

 

 (2)に関して、ある企業が最近、業績不振を理由に一部事業部門を閉鎖し、同部門の全従業員を解雇したところ、残留を希望する従業員から、不当解雇だとして労働紛争仲裁委員会に提訴された。企業全体の収益が赤字であれば、経営不振の届け出が労働局に受理されることによって解雇が認められる。しかし、同社は黒字だったため、労働局が届け出を受理せず、同委員会はこの従業員について残留を認める判断を下した。

 

 事業部門の閉鎖・縮小に伴い従業員を解雇する場合は会社側の都合と見なされるため、従業員に経済補償金(注1)を支払う必要がある。法定経済補償金に、23ヵ月分の給与を加算した特別補償金を支払うのが一般的だが、さらに解雇1ヵ月前の通知に代わる代通金、署名奨励金(注2)を支払うケースもある。

 

 特別補償金については、同じ地域やグループ内の企業であらかじめ支給月数を決めておく必要がある。同一開発区内で撤退を決めたA社とB社の事例では、A社が4ヵ月分を支給したのに対し、1ヵ月分しか支給しなかったB社内で労働争議が発生した。争議を引き起こしたB社の従業員が、当該地域では4ヵ月分が慣例だと誤解したためだ。

 

<労働当局への事前報告も重要>

 大規模な人員削減については、一般的に次の手順で進められている。

1)解雇対象者の事前調査

2)前出の補償方法(案)の確定

3)必要書類の準備、地元当局への事前報告

4)解雇

 

 (1)においては、a.妊婦、労災が認定され得る従業員などの有無、b.社会保険料および残業代の未払いの有無、を確認し、人員削減費の積算を行う。うちa.に関し、以下の従業員は解雇が禁止または雇用継続が優先されるため、可能な限り削減の対象としないことだ。

 

○解雇禁止

・勤続15年以上、かつ法定の退職年齢まで5年未満の者

・妊娠または授乳期間中の者

・社内で職業病に罹患(りかん)した、または労働災害により負傷した者

・治療期間中の者

・職業病の危険を伴う作業に従事もしくは接触した者で健康診断を受けていない者、職業病が疑われる者で診断期間中の者

 

○雇用継続が優先される者

・会社と比較的長期の労働契約を締結した者

・会社と無固定期限の労働契約を締結した者

・家庭内に他の就業者がおらず、扶養が必要な高齢者または未成年者を有する者

 

 前出の(2)の補償方法(案)のほか、(3)では労働契約の解約協議書、解雇対象となる従業員への通知書、董事会(取締役会に相当)での決議書などを準備し、これらを基に、あらかじめ地元の労働当局に人員削減の方針を説明し、理解を得ておくことが重要だ。無断で人員削減を行うと、労働争議が起きた際に当局の支援を期待できないほか、当局は解雇直前に現地の慣例に倣い補償方法(案)を修正する可能性がある。

 

 (4)の解雇については、a.従業員の招集と会議に出席した従業員による署名、b.人員削減の通告、c.経済補償金額などに関する通知書の配布、d.従業員との質疑応答、e.人員削減通知の掲示、f.署名済みの解約協議書の回収、の順で行われる。一般にb.は会社トップから、c.d.は人事と法務担当者が対応する。

 

 e.に関しては、メールで社内に周知することも可能だ。事業再編など会社側の都合で人員を削減する場合は、工会(労働組合に相当)にも通知する必要がある。

 

<過失立証に欠かせない就業規則への明記>

 事業再編に伴う大規模な人員削減ではなく、個別に従業員を解雇する場合は、「過失解雇」と「非過失解雇」に大別される。

 

 過失解雇の場合、(1)試用期間中に採用条件に合わないことが判明した、(2)会社の就業規則に著しく違反した、(3)著しく職務を怠り、私利を得て、会社側に重大な損失を与えた、(4)他社でも就業し会社側に重大な影響を与えた、(5)会社側を欺き無効な労働契約を締結した、(6)刑事責任を追及された、など労働者側に過失があれば、会社側は経済補償金を支払うことなく、かつ事前に通知せずに即時解雇が可能だ。

 

 上記(2)~(4)の程度は曖昧で立証が難しいため、会社としては違反や損失の程度を就業規則に盛り込む必要がある。うち(3)の損失の程度については、法院の判例によると、上海市では1万元(約15万円、1元=約15円)以上、広州市や深セン市では5,000元以上なら、「合理性あり」と判断されるようだ。

 

 一方、非過失解雇については、(7)労働者が発病し、治療期間満了後も業務に従事できない、(8)研修や部署の異動を行っても、労働者が業務に耐えられない、(9)(部門削減などの)事業再編など客観的にみて重大な変化が生じ、労働契約を履行できず、かつ労働契約の内容変更に合意できない、などの要件があれば、30日前に労働者へ通知し、経済補償金の支給により労働契約解除が可能となる。

 

 (8)については、人事評価で最低となった者が必ずしも該当するわけではなく、業務に耐え得ないことを証明できれば上記の解雇条件に該当する。ただ、あらかじめ就業規則にその基準を明記しておく必要がある(注3)。

 

(注1)労働契約解除前12ヵ月間の平均月収に勤続年数を掛け合わせた額。月収が勤務地前年度の平均月収の3倍を上回る場合は、同平均月収の3倍を限度額とし、これに勤続年数を掛け合わせる(ただし、最長で12年を超えない)。

(注2)代通金は給与の1ヵ月分。署名奨励金に関する規定はないが、1ヵ月分の給与を支払うのが一般的。署名奨励金は解雇に抵抗する従業員の不満解消のために支払われる。例えば、今後1週間以内に労働契約の解約協議書に署名する者に1ヵ月分の給与を奨励金として支給する、など。

(注3)労働契約の解除に当たっては、(1)別業務の手配、(2)研修の実施や部署の異動、(3)労働契約の内容変更、を労働者と事前に協議する必要がある。うち、(2)に関しては、業務内容に関する試験は研修には見なされないが、試験の成績が悪ければ、業務に耐え得ない証拠となる。

 

粕谷修司、汪涵シ)

(中国)

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