標準化法改正の動きへの対応迫られる日本企業-東京で「中国標準化セミナー」開催-

(中国)

中国北アジア課

2016年07月04日

 中国では2016年3月に「標準化法(改正草案意見募集稿)」が公表され、改正作業が進められている。日本企業にとって、標準化への対応が中国での生産・販売で不可欠となる中、策定段階から情報収集し、自社の展開に不利にならないような働き掛けも今後は重要となる。ジェトロは6月16日、「中国標準化対応セミナー」を東京で開催し、3人の専門家が法改正の動向や日本企業の対応方法について解説した。

<「強制標準」は国家標準のみに>

 最初に、BLJ法律事務所代表・弁護士の遠藤誠氏が標準化法とその改正動向、特許や独占禁止法をめぐる法令の制定・改定動向について説明した。

 

 中国の標準は「国家標準」「業界標準」「地方標準」「企業標準」の4等級に分かれ、そのうち「国家標準」は現在3万件以上制定されている。また、強制的な実施が求められる「強制標準:人体の健康、人身、財産の安全を保障する標準」とそれ以外の「奨励標準:企業が自主的に採用することを奨励する標準」に大別され、国家標準のうち強制標準は「GB」、奨励標準は「GBT」と表示される。管轄は「国家標準化管理委員会(国家品質検査総局の傘下機関)」が中心となる。

 

 20153月に国務院から「標準化業務改革を深化する方案」が示され、これに基づいて検討された「標準化法(改正草案意見募集稿)」が20163月に公表された。条文数は、現行法の全26条に対し、全42条に増えている。

 

 意見募集稿のポイントとしては、(1)標準が再分類され、国・地方行政が定める標準(国家標準、業界標準、地方標準)と社会団体・企業が定める標準(団体標準、企業標準)が定められ、新たに団体標準が追加された、(2)強制標準の整理統合・簡素化が進み、強制標準は国家標準のみとし、業界標準および地方標準の強制標準は廃止された、(3)企業が製品競争力を向上させるため、企業標準の自主的な制定を奨励し、企業の「自己申告制」を新設した、などの点がある。そのほか、現行法と意見募集稿の相違点について紹介があった。

 

 また、技術をルール化して一般化する「標準」と、自社技術を保護するための「特許」という性質の異なる2つの権利には相互に相いれない部分があり、これを解消するための規定として、「国家標準の特許に係る管理規定(国家標準化管理委員会・国家知的財産権局)」や「特許権侵害紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈(二)(最高人民法院)」について説明があった。

 

 標準と独占禁止の関係をめぐる最近の動向としては、「標準必須特許(注)」に関連する訴訟や紛争が増えていることについて、華為技術(ファーウェイ)と米国のインターデジタルの間の訴訟や米クアルコムに対する独禁法違反調査などの事例が紹介された。

 

 遠藤氏は、中国の技術標準化への日本企業の対策として、(1)中国での標準化作業が行われようとしている場合、情報収集を早期に行い、自社の特許が標準に組み入れられた方が良いか否かについてまず検討し、組み込まれるべきだと判断した場合には、標準策定の過程に早い段階から深くコミットし、自社の有する技術が採用されるよう働き掛けを行う、(2)自社の有する技術とは異なる技術を中国が標準化しようとする場合には、その動向を注視し対応する、(3)技術標準化は低価格競争を引き起こす恐れがあるため、自社が利益を挙げる方法、例えば周辺技術や製造技術の特許で稼ぐことなどを検討する必要がある、と説明した。

 

<対応には冷静な判断が必要>

 次に、「日本企業のルール形成戦略」について、ビジネス機械・情報システム産業協会(JBMIA)総務企画部担当部長の澁谷直樹氏が講演した。

 

 中国が標準化に力を入れる背景として、国家戦略「中国製造2025」に基づき技術レベルの向上のツールとして標準化を位置付けているということ、対外貿易競争における新たな優位性確保、国内の品質問題に対する不信感への対応、などがあると説明。1990年代に中国企業が海外進出した際に、先進国市場では標準に準拠しないと市場に参入できなかったり、準拠するためには知財権のライセンス取得が必要となり高額のライセンス料を要求された経験から、中国政府は標準と特許に注目し、標準化戦略を重視するようになったのではないかと説明した。

 

 他方、中国が国際標準と異なる独自の標準を採用することになると、日本企業は中国標準に対応するための対応によるコスト問題や標準の認証に関連した技術情報の開示などの読み切れないリスクを多く抱えることになる。これについて澁谷氏は、基本的ポリシーとして、まず(1)リスクを最小限化することを念頭において情報収集を行い、国際標準との一致や中国市場の消費者にとって有益な標準を要求し、その上で、(2)利用できるメリットを最大限生かし、最終的に(3)落としどころを決める(優先順位をつける、100%勝とうとしない)、といった点をポイントとして挙げた。

 

 結論として、「外資系企業の要求が100%反映されるわけではないが、公式・非公式での交渉を通じて、あるいは代替案を提示することにより、影響を最小限することは可能で、中国標準の運用、事業への影響を冷静に分析した上で、相互にウィンウィンの関係が構築できるよう検討することが重要だ」と語った。

 

<中国企業の企業標準取得が急増>

 最後に、ドキュメントサービス・コンサルティングを展開する艾思益信息応用技術(北京)総経理の峯本裕一氏が「企業標準を市場展開に生かす」と題して、実務的な対応を紹介した。まず、中国では「良い品質」の考え方として、関連する「法令」「標準」「認証」を全て満たすことが基準となっていることから、標準準拠の重要性を認識する必要がある。20153月に「国務院の標準化工作改革計画に関する通知」が発表され、改革の一環として、企業標準については従来の「届出制」から「自己申告制」へ移行される見込みで、7つの試点(上海市、浙江省、福建省、山東省、重慶市、深セン市、成都市)を定めてテスト運用を行うことが発表されている。

 

 企業標準を取得することのメリットとしては、(1)企業として品質を重視している姿勢のアピール、(2)自社ルールを品質の担保として登録できる、といった点を、またデメリットとしては、(1)製造フローや品質に関する「縛り」、(2)抜き取り検査と3年ごとの更新手続き、(3)作成時に専門家チームを組織しての審査が必要、などの点を挙げている。企業側の懸念として代表的な「情報が漏えいするのではないか」ということについては、記入項目は決められた部分のみで、全て開示する必要はないこと、また公開する情報も全文ではなく一部で可能なことから重要な技術を必ずしも開示する必要はなく、そのテクニカルな方法については専門家のサポートを得るのも1つの方法、と説明した。

 

 2015年から品質保証の手段として、中国企業による企業標準取得の勢いが加速しており、スーパーやコンビニで「Q/」(企業標準)が表示されている商品が急増しているという。企業標準は無料で取得でき、審査基準も明確に定められていないことから、比較的容易に取得できている状況で、運用に際しては今後さらなる整備が求められる。

 

 質疑応答では、標準化に関する情報収集方法や、改正案の内容と留意点についての質問が多かった。「標準化法案の策定時期はいつか」との質問に、遠藤氏は「同法の改正は『国務院2016年立法業務計画』において、早急に起草・審査を行うべき項目の中に掲げられており、優先度が高いことから、早ければ年内に策定される可能性もある」とし、重要度の高さを示した。

 

(注)標準必須特許は、技術標準の前提となるような技術に関わる特許。

 

(黄海嘉)

(中国)

ビジネス短信 caa7064dee3a5b76