ドイツ経済への英国EU離脱問題の影響は軽微、ifo研究所が試算-ドイツ事業拡大を視野に入れる在独英国企業も-

(ドイツ、英国)

デュッセルドルフ発

2016年07月19日

 英国のEU離脱問題がドイツ経済に及ぼす影響は限定的、との見方が大勢になっている中、ドイツのifo経済研究所は、2016年のドイツの実質GDP成長率は0.1ポイントの低下にとどまる、との試算を発表した。一方、在ドイツ英国企業の中には、英国本社からドイツを統括しづらくなることなどを見越し、ドイツ拠点の強化など投資拡大を検討する企業もあるようだ。

<「ドイツへの影響は限定的」とメルケル首相>

 英国の国民投票でEU離脱が多数を占めたことがドイツ経済にもたらす影響について、アンゲラ・メルケル首相は76日の記者会見で、「今後の英国とEUの関係に大きく依存するものの、ドイツ経済にもたらす不確実性は限定的だ」と述べた。また、会見に同席したドイツ雇用者協会連盟(BDA)のインゴ・クラマー会長も「ドイツやEUへの経済的影響は英国自体への影響に比べてはるかに小さく、ドイツは英国より対応がしやすい」とした。

 

 また、ifo経済研究所は76日に発表した試算(注)で、英国民投票の影響によるドイツの実質GDP成長率の低下幅は、残留を選択していた場合と比べて2016年は0.1ポイント、2017年は0.10.2ポイントにとどまるとした(表参照)。低下の主因は輸出と投資の減少だ。一方、英国の実質GDP成長率は、同じく残留を選択していた場合と比較して2016年は2.0%から1.4%に、2017年は2.2%から0.7%まで鈍化するとしている。そして、EU残留が選ばれていた場合に比べ、ポンドは対ユーロで、2016年は1ユーロ=0.78ポンドから0.80ポンドへ2.5%、2017年は0.83ポンドへ6.0%、それぞれ下落するとみている。

表 英国民投票後のドイツ経済への影響(残留を選択していた場合との比較)

<在ドイツ英国企業の中には積極投資を検討する動きも>

 ドイツ商工会議所連合会(DIHK)が英国民投票後にドイツ国内の企業5,600社に対して実施したアンケート調査によると、英国との貿易について短期的には、約7割の企業が「変動はない」、約3割が「減少する」と回答した。中期的にみた場合は、約半数の企業が「減少する」と回答した。

 

 投資動向に与える影響については、ドイツ国内企業の91%がドイツでの投資活動に「影響なし」と回答したが、このうち在ドイツ英国企業53社に限ると、「影響なし」は72%に減り、21%が影響を避けるためにドイツでの投資を増やす可能性がある、と回答している(図1参照)。投資を減らす、と答えた企業は7%だった。同様な傾向は雇用についてもみられ、「影響なし」と答えた在ドイツ英国企業の割合は71%で、全体平均の95%と比べて低かった。これらの結果から、在ドイツ英国企業は、今後は英国本社からドイツ事業を統括しづらくなることを見越し、ドイツ国内の拠点の強化あるいは縮小を検討することについて、一般的なドイツ国内企業に比べて敏感になっていることが推察される。

図1 ドイツ国内企業のドイツへの投資およびドイツでの雇用

<ドイツ企業の対英投資意欲は冷え込む>

 一方、ドイツ企業の対英投資意欲は冷え込みをみせており、英国内に拠点を有するドイツ企業の35%が、英国への投資は縮小する可能性がある、と答え、4社に1社は英国での雇用は減少する見通し、と回答した。雇用を増加させる、と答えた企業は2%にとどまり、在ドイツ英国企業がドイツ拠点を拡大させようとするのとは逆の傾向がみられる。

 

 また調査では、多くのドイツ国内企業は英国のEU離脱問題の懸念事項として、英国とEU間の「非関税障壁」や「政治・法律上の不確実性」を挙げている(図2参照)。為替リスクを懸念する割合も高かったものの、EU全体の経済減速に対する危機感は比較的低かった。

図2 英国のEU離脱における懸念事項(複数回答)

(注)ロンドンから多くの金融機関が撤退する、英国がより厳格な移民政策を打ち出す、などの極端なケースになった際の長期的な影響は含まれていない。また、英国のEUへの離脱通知後、正式離脱に至るまでの2年間を想定。

 

(福井崇泰、クリスティアーネ・ボンガルツ)

(ドイツ、英国)

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