離脱ドミノはないがEU懐疑派台頭への対処が重要-英国EU離脱問題でIFRIにインタビュー-

(フランス、EU、英国)

パリ発

2016年07月06日

 英国国民投票でEU離脱支持が過半数となった結果を受け、ジェトロは6月28日、フランス国際関係研究所(IFRI)ブリュッセル代表のビビアン・ペルチュゾ氏に今後のEUの行方とフランス国内政治に与える影響についてインタビューした。

EUに否定的な論調の英国>

 英国の国民投票前にはフランスでもメディアなどでEUの在り方(特に経済と移民問題)に関する議論が再燃し、フランスとドイツを柱に新たなEU改革を推進すべきだといった議論もみられた。投票結果が出た後すぐにEU加盟国間で数回にわたる地域別の協議が行われたが、建設的な結論には至らず、むしろ英国のEU離脱の条件を早急に議論する必要性を確認するにとどまった。これまでEU内での議論の場では常に統合深化、新規加盟国の加入に関する討議などが行われ、後退・離脱を話し合う場ではなかった。先例のないこの状況にEUがいかに対処していくかは容易にはみえてこない。

 

 加盟国の中で英国ほどEUに対して否定的な論調の国はなく、EU離脱志向の国もほかにないことから、ここ23年でEU離脱ドミノが生じるとは思われない。これを機にEUが解体へ進むのではないかというのは心配し過ぎだ。しかし、EU懐疑派が力を盛り返す可能性は十分にある。各加盟国の政治指導陣が国民対話の中で、いかにこのEU懐疑派の台頭に対処するかが重要となる。

 

<統合の推進急がず、国民対話の各国同時進行が必要>

 これらの要素から、今後のEUの動向を予見するのは非常に困難だが、2つのシナリオが考えられる。

 

 1つは、英国離脱後のEUが基本的問題に関しても政治的合意のないまま足踏み状態となり、政治的萎縮状態を生むものだ。この場合、EU加盟国内および域外におけるEUのイメージ悪化につながる。域外では、2008年に始まった金融・経済危機以降のEUは内向的過ぎるとの批判が既にある中、英国の離脱に向けた対処でEUがさらに内向きになり、国際的視点を欠くことが懸念される。英国の離脱により、EUが経済パートナーとしての重要性を失う可能性は否めない。

 

 もう1つは、英国の離脱を機に、その釣り合いを取るため、27ヵ国のさらなる統合が推進される可能性だ。ただし、この場合、統合は各国の主権の一部の譲歩を意味するため、加盟国内で経済問題を中心として統合深化への準備がなく、国民対話が十分でない現状をみると、反EUの機運を助長する結果となる懸念はある。

 

 私は、この2つのシナリオの中庸を取り、統合の推進を急がず、初期段階から「EUで何をどうしていきたいか」といった根本的な国民対話を各国で同時進行させるべきだと考える。EUは複雑で官僚的だという各国国民の受け止め方から、これまでこのような議論がされてこなかった。統合推進にのみ議論を限った場合、国民の反発は大きい。この根本的問題提起から最終的に統合を進めるか否かの答えを導くことが重要となる。既成の解決方法は存在しないことを認識し、急がないことが肝心だ。

 

EU改革問題が仏大統領選の重要な争点に>

 英国のEU離脱問題へのフランス政界の反応は非常に多岐にわたり、現政権の政治家および2017年大統領選挙の候補とみられる政治家や各党派とも、軒並みEUの改革に焦点を合わせ、大統領選挙を視野に入れて意見を述べている。このことからも、EU改革問題が大統領選に何らかの役割を果たすことは確かだ。2大政党が、同問題に関して党内統一が取れないままに、極右がEU改革問題で物議を醸すといった「小役」にとどまるのか、もしくはEUの在り方の根本を問う議論に国民が参加するまでの「大役」となるかは分からないが、大統領選が経済や移民問題に直接関わるEU改革問題を避けて通ることはできない。英国民の離脱選択が、EU改革論議に新たな活力を与えたことは確かだ。大統領選挙での勝者が誰になるかにかかわらず、次期大統領はEU改革問題を重要な課題に据えることを余儀なくされるのは明らかだ。

写真 IFRIブリュッセル代表のビビアン・ペルチュゾ氏(IFRI提供)

(渡辺智子)

(フランス、EU、英国)

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