欧州議会、英国との離脱交渉めぐり議論

(EU、英国)

ブリュッセル発

2016年07月01日

 英国のEU離脱問題をめぐる緊急討議が6月28日からブリュッセルの欧州議会で始まった。欧州議会の主要会派やEU首脳は総じて「英国政府の迅速なEU離脱プロセス開始」を求めているが、一部に英国政府に十分な時間的猶予を認めるべきだ、との声もある。他方、英国のEU離脱の「推進役」英国独立党(UKIP)党首で欧州議員も務めるナイジェル・ファラージュ議員が登壇すると議場は騒然、激しい議論の応酬となった。欧州議会は、2017年下半期に予定されている英国の「EU議長国」就任の見送りや、ロンドンに本部を置く欧州医薬品庁(EMA)の移転なども求めているとみられる。

<英国・離脱派リーダーを罵倒、泥仕合に>

 628日午前から欧州議会の本会議で始まった、英国のEU離脱をめぐる緊急討議では、EU首脳やさまざまな政治的立場の欧州議員がそれぞれの主張を繰り広げた。

 

 まず、2016年上半期のEU議長国を務めるオランダのジャニン・ヘニス・プラサハート国防相が、「今後の(英国とEUの)関係を建設的で、相互に有益なものにすることが、われわれ共通の関心事だ。政治的空白が続いたところで何の役にも立たない」「英国が冷静に必要な決定を行えるように、時間的猶予を認めるべきだ」と述べた。

 

 これに対して、欧州委員会のジャン・クロード・ユンケル委員長は「英国政府には速やかに立場を明確にし、不透明性を抑えるように努めてもらいたい」「(英国政府からの)離脱通知がなければ、交渉は始められない」と語り、英国の離脱プロセスを「粛々と」進める方向性を示した。また、英国政府との非公式あるいは秘密裏の協議には応じない姿勢を明確にした。さらに、今回の英国のEU離脱を推進したUKIPのファラージュ党首(英国選出)に対して、ユンケル委員長が「あなたが英国のEU離脱を主導し、英国国民がそれに応えた。ではなぜ、ここにいるのか」と詰め寄る一幕もあった。

 

 また、欧州議会の最大会派「欧州人民党グループ(EPP)」のグループ議長を務めるマンフレート・ウェーバー議員(ドイツ選出)も、英国の若年層の約73%が「EU残留」に投票したことに触れ、「あなた方(英国の若年層)を失うことにじくじたる思いだ」と感想を述べた上で、「今回の国民投票で勝ったのはポピュリストだ」と指摘。意図的に誤った情報を流して「EU離脱キャンペーン」を展開した、とされるUKIPのファラージュ党首を「恥を知れ」と一喝した。

 

 EPPと欧州議会で大連立を組む「社会・民主主義進歩連盟グループ(SD)」のジャンニ・ピッテラ議長(イタリア選出)は「英国政府は速やかに国民のEU離脱の要請をEUに通知すべきだ」と従来の主張を繰り返した。

 

 他方、「欧州統一左派グループ/北方緑の左派(GUENGL)」のガブリエレ・ツィマー党首(ドイツ選出)は、一方的にEU離脱を決めた英国を切り捨てる欧州議会・主要各派のスタンスについて「自己批判がなく、賛同できない」との考えを示した。欧州債務危機以降のギリシャやイタリアなどに対するEUの対応を「残忍」と指摘し、こうしたことが「EU市民の心の中に『拭えない記憶』として残り、特に英国では仕事や社会保障、年金問題をめぐる不安をもたらし、結果としてEU離脱に傾いていった」と分析。また、「EUはグローバリズムの危険性から市民を守るという意思も示せていない」とも述べた。

 

 EU懐疑派である「自由と直接民主主義の欧州(EFDD)」に所属するファラージュ議員(UKIP党首)が登壇しようとすると、議場は一時騒然となり、議長が不規則発言の注意を促す事態となった。ファラージュ議員は「(自らが英国の)EU離脱を掲げて欧州議員に就任してから17年、あなた方は嘲笑を続けてきた。しかし、もう笑えないだろう。あなた方こそ、政治的には否定されたのだから」と語った。また、「英国がEUを去る最後の加盟国となるわけではない」との見方も示した。

 

 これに続いたフランスの極右政党「国民戦線」の党首で、(欧州議会の)民族派・極右グループ「国家と自由の欧州(ENF)」の共同代表を務めるマリーヌ・ルペン議員(フランス選出)は、英国の国民投票結果を「ベルリンの壁崩壊以来の歴史的快挙」と称賛し、「EU離脱実施を先延ばしすることは民主主義の原則に反する」とも指摘した。

 

<欧州議会議長、英国の離脱通告先延ばしを牽制>

 欧州議会のマルティン・シュルツ議長は628日の討議後、ブリュッセルで開催されたEU首脳会議の席上、「英国国民の決断はできる限り早く履行されなければならない」と発言し、引き続き、EU離脱プロセスの早期開始を求める厳しい姿勢をあらためて示した。「不透明性を先延ばしするようなまねは、もはや誰のためにもならない」として、EUへの正式な離脱通知を行わない英国政府の姿勢を牽制した。

 

 なお、欧州議会は欧州理事会に対して、2017年下半期のEU議長国に英国が就任する予定になっていることについて、運営に支障がないように調整することを求めた。また欧州議会は、英国のEU離脱に伴ってEU機関の組織配置を見直すことも検討に入ったとされており、例えばロンドンに本部を置くEMAのような機関が想定されているとみられる。

 

(前田篤穂)

(EU、英国)

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