オランド大統領がEU権限を限定する方針示す-「欧州再構築」が2017年大統領選の争点に-

(フランス、英国)

パリ発

2016年07月01日

 オランド大統領は6月24日、英国の国民投票でEU離脱派が多数を占めたことは「欧州にとって深刻な試練になる」との認識を示し、EUの権限を欧州大陸の安全保障・防衛、成長・雇用のための投資などの分野に限定する方向で、欧州統合を進めていく方針を示した。報道では、今回の結果の原因を「機能不全に陥ったEU」に求める見方が多く、「欧州再構築」が2017年の大統領選とそれに向けた各政党の予備選で争点の1つになるとみられる。

<「EUにとって深刻な試練」との認識>

 オランド大統領は624日、英国の国民投票の結果を受け「遺憾の意」を表明するとともに、この結果は「機能不全に陥ったEUEUのプロジェクトに対する市民の信頼喪失について、明確に認識することをわれわれに迫るものだ」「欧州にとって深刻な試練となる。ポピュリズム、極左・極右勢力の台頭に直面するリスクは大きい」と述べた。

 

 大統領は「跳躍が必要だ」とし、フランスは「欧州が安全保障・防衛、成長・雇用のための投資、ユーロ圏の統合強化など核となる課題に集中するための推進力となる。EUは欧州市民が求める分野で迅速に意思決定する一方、加盟国がそれぞれ対処すべき課題は国家主権に任せるべきだ」と述べ、フランスがEUの権限をより狭い分野に限定する方向で欧州統合を進めていく方針を示した。

 

 また英国については「もはやEU加盟国ではない。(離脱に向け)条約で定められたプロセスを即時適用することになる」とする一方、EU離脱後の「英国との協力関係は続けていくべき」であり、フランスは「とりわけ経済、移民・難民問題、防衛においてこれを推進していく」と語った。

 

<極右・極左政党は国民投票の実施を要求>

 報道では、英国の国民投票の結果を「機能不全に陥ったEU」が原因だとする見方が多い。「レゼコー」紙(627日)は「責任はEUの挫折にある」「EUが欧州市民と話し合う術を心得ていないために罰を受けたのだ」と分析した。「ル・フィガロ」紙(627日)は「市民(の信頼)を取り戻すために」と題した論説で「欧州の問題は(テロ、移民など)新たな危機に対し、EUが欧州市民の防御壁になる手段を持たないことだ」と指摘した上で、「欧州は統治形態、政策、哲学から全てを変えなければならない。それが新条約を必要とすることは明らかだ。そして、それは各国の国民投票で批准されるべきものだ」と主張した。

 

 欧州再構築をめぐる問題は、国民投票実施の是非を含め、2017年の大統領選とそれに向けた各党の予備選における争点の1つになるとみられる。移民問題、長引く失業問題を背景に支持を伸ばす極右「国民戦線(FN)」のマリーヌ・ルペン党首は24日、「これまで私が何年も主張してきたように、フランスも同様の国民投票を実施すべきだ」と訴えた。ルペン党首は大統領選で当選した場合、すぐに「金融・財政、経済、国境審査、規制策定の4つの主権を取り戻すため6ヵ月かけて欧州委員会と交渉する」としたほか、EU離脱とユーロ脱退について「国民投票を実施する」と述べた。

 

 左派有権者の人気を集める極左「左翼党」ジャンリュク・メランション党首は24日、「英国のEU離脱は終わりの始まりだ。EU構想は官僚によるカースト制とドイツが課した緊縮財政により殺された。EUを変えるか、EUから離脱するかだ」とし、大統領になれば「(EUの法的根拠である)EU基本条約に関して国民投票を実施する」方針を明らかにした。

 

<サルコジ前大統領は新EU基本条約を提唱>

 他方、最大野党・共和党(PR)のニコラ・サルコジ党首(前大統領)は626日、週刊紙「ジュルナル・デュ・ディマンシュ(JDD)」のインタビューで、欧州市民の保護、セキュリティー確保、国家や文化のアイデンティティー保護、の3つを柱にした欧州再建を訴えた。具体的には、a.ユーロ圏政府の設立、b.(ユーロ圏に限った)第2シェンゲン協定による国境審査の強化、c.EU基本条約の改正によるEUの権限分野の限定、などを提案し、「早期に行動しなければならない」として、EU加盟国に新条約を2016年末までに採択するよう求めた。国民投票の是非についてサルコジ党首は明言を避けたが、欧州構想に関する国民投票の実施を公約に掲げる共和党の予備選候補者もおり、同党の中でも意見が分かれるところだ。

 

 なお、最近の世論調査では、フランス人の69%がフランスのEU残留を求める(注1)一方で、国民の61%はEUに不満(注2)と回答している。欧州再構築を政治家や官僚の手から取り戻したいとの思いはフランスでも広がっているようで、「ル・フィガロ」紙がネット上で実施した世論調査(625日、6246人が回答)では「フランスはEUの新たなプロジェクトについて国民投票を実施するべきか」との問いに、67%が「実施すべき」と回答している。

 

(注1)フランスの世論調査会社Elabeの調査結果(531日~61日実施)。

(注2)米ピュー・リサーチ・センターが5月に行った世論調査の結果(「ル・フィガロ」紙69日)。

 

(山崎あき)

(フランス、英国)

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