短期的には農産物などの対英輸出に影響を懸念-英国民投票への政界・産業界の反応-

(イタリア、英国)

ミラノ発

2016年07月01日

 英国のEU離脱に関する国民投票結果を受けて、イタリアもさまざまなかたちで影響を受けていくことが予想される。貿易面では輸出の減少が心配される。政府は英国との今後の離脱交渉に注力することを最優先とし、産業界は現時点ではどのような影響が出るかの判断を避けている。

<短期的には英国への輸出が減る可能性>

 英国はイタリアにとって、EU非ユーロ圏の中で最大の貿易相手国だ。輸出額は2248,400万ユーロ(構成比5.4%)、輸入額は1057,500万ユーロ(2.9%)で、イタリアの貿易黒字となっている。

 

 イタリアからの主力輸出品目は、自動車および部品類、医薬品・医薬製剤、ファッション関連製品などだ(表参照)。このほか近年、顕著に輸出を伸ばした製品としては発泡ワインなどがある。特に、2015年の発泡ワインの輸出額が前年比30.7%増と急増したこともあり、農業団体コルディレッティは英国の国民投票実施前から業界関係者などに対し、離脱が決定した場合のリスクについて注意喚起していた。

表 イタリアから英国への輸出品金額上位

 今回の結果を受けて、政府系貿易保険のSACEは、イタリアから英国向けの輸出予測について、2016年は前年比12%増の低成長にとどまり、2017年は37%減になる恐れがあると予測している。イタリア協同組合総連合コンフコーペラティブは、農業分野で72,700万ユーロの輸出減を予測している。

 

 今後、EUと離脱後の英国の経済的関係の再構築については大きく3つのシナリオが想定されており(2016年6月22記事参照)、関税や非関税障壁が生じる場合、上記品目を中心として将来的に影響を受ける可能性がある。また為替の変動により、英国以外との輸出入にも影響が出ると予想されるが、各通貨に対しユーロ安となる場合には、輸出に好影響を及ぼすことも考えられる。中長期的な先行き不透明感が続くと、原油価格や全世界的な経済活動に響き、欧州域内に限らず輸出入双方に影響が出るだろう。

 

<政府は英国離脱交渉に注力、EU改革の必要性にも言及>

 マッテオ・レンツィ首相は「EUはより人間性、公正性を高めるための変革をする必要があるが、欧州はわれわれの家であり、われわれの未来だ」と、EUの変革の必要性を示しつつも、枠組みを重視する意向を表明した。パオロ・ジェンティローニ外相は、英国はEU加盟28ヵ国の中の単なる一国ではないので離脱交渉にどう対処するかが重要だ、と述べた。カルロ・カレンダ経済開発相は、混乱やリスクを乗り越えるため従来を上回る投資が欠かせず、62729日の欧州首脳・閣僚級会合に引き続いて、今後の議論の優先順位を明確に定義する必要がある、と語った。

 

<野党は欧州の内側からの変革を主張>

 6月に実施された地方市長選挙において、主要都市のローマとトリノで勝利を収めた第三極政党「五つ星運動(M5S)」はウェブサイトで、「EUは変化するか、死ぬか」のタイトルを付け、IMF、欧州中央銀行(ECB)、欧州委員会は今回の英国での国民投票結果について何が問題だったのかを考えなければならないとして、緊縮財政方針に反対する主張を表明した。また、投票の結果は最大限に尊重されるべきだ、との見解を示している。同党は以前、より反EU的色彩が強かったが、現在は通貨ユーロからの離脱を唱えるものの、一方で「欧州」を「内側から改革する」とも主張している。

 

 ローマ市長選挙で当選したビルジニア・ラッジ氏が強調したのも、反汚職、サービス改善、財政再建といった市政改革に即した内容だった。同党所属の欧州議会議員のピエルニコラ・ペディチーニ氏もテレビのインタビューで、「今の欧州は好まないが、欧州はそこにあり、中から変革しなければならない」とコメントしている。EUに懐疑的な野党「北部同盟(LN)」のマッテオ・サルビーニ党首は、英国国民投票の結果を歓迎する意向を表明し、欧州での改革の必要性を述べてレンツィ政権への批判も行っている。

 

 イタリアでは、上院の権限縮小・簡素化と地方自治体改革など、国内政治・行政改革に関する憲法の改正の是非を問う国民投票の実施が予定されている。この国民投票がレンツィ首相の政権運営に対する信任投票という色彩を帯びる可能性もあり、2016年秋にかけて国内政治動向には注意を要する。

 

<産業界には評価を避ける姿勢も>

 産業界の反応は業界によって異なるが、現時点での評価を避ける向きが多い。イタリア産業総連盟のビンチェンツォ・ボッチャ会長は、パニックになる必要はなく、EUは今までも傷を負って成長してきており、EUの基礎理念を忘れてはいけない、とコメントし、英国の国民投票結果を中長期的なEU発展のための現象の1つと位置付けた。ファッション展示会運営ピッティ・イマジネのラファエロ・ナポレオーネ氏は業界誌のインタビューに対し、英国の投票結果の影響について、イタリアと英国は非常に強く複雑な相互性で結び付いており、好影響か悪影響かを表明するには早過ぎる段階だ、と述べた。また、何らかのかたちで非関税障壁が復活し、労働移動の制限が行われる可能性に言及した。

 

(山内正史)

(イタリア、英国)

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