プーチン大統領ら政府首脳は冷静に受け止め-英国民のEU離脱選択の影響はほとんどないとの見方-
(ロシア、英国)
モスクワ発
2016年07月01日
EU離脱の是非が問われた英国の国民投票の結果について、ロシアでは主要紙が特集を組むなど大きく取り上げられている。ルーブルの為替レート下落、証券市場の悪化といった懸念から、ロシアにはほとんど影響がない、これまでの激動に比べれば大したことはないという見方、対外情勢の緩和やロシアへ投資が戻ってくるといった捉え方など、さまざまな分析がある。
<金融関係者はルーブル下落・証券市場悪化を懸念>
英国の国民投票の結果を受け、6月23日から24日にかけて、ロシアの株式指数であるMICEX指数は1.8%下落、RTS指数も3.0%下落し、ルーブルの対ドル為替レートも0.8%安となった。他方、ポンドに対しては5.4%上昇、ユーロに対しても0.8%高となった(モスクワ証券取引所ウェブサイト)。
英国のEU離脱問題について金融関係者の間では、ロシア経済の不安定化につながるといった見方が散見される。最大手銀行ズベルバンクのゲルマン・グレフ頭取は「ロシアにとっては、経済回復基調の停止、ルーブルの為替レート下落、ロシア証券市場の悪化につながるかもしれない」と語った(ブルームバーグ6月17日)。また、プロムスビャジバンク資本市場・産業調査分析シニアマネジャーのイリヤ・フロロフ氏は、原油相場への影響、ドル高、原油・ルーブルを含むリスク資産需要の低下が考慮され、ルーブルとロシア株の価値を弱める可能性があるとしている(「ロシア新聞」6月22日)。
<「国内経済への影響は限定的」と財務相>
プーチン大統領は冷静に受け止めている。6月24日、ロシアにとってプラスもマイナスもあるが、中期的には全てが元通りになると述べた(大統領府ウェブサイト6月24日)。ウリュカエフ経済発展相も、原油相場・ルーブル為替レートの急激な下落を引き起こすものではないとした(タス通信6月23日)。
インターファクス通信(6月24日)によると、シルアノフ財務相は「ロシアに原油価格の下落、ルーブル安、金融市場の変動拡大をもたらすが、ロシアが経験したものに比べれば大したことはない。国内経済への影響は限定的だ」とした。また、前ロシア財務相で、戦略開発センター所長のアレクセイ・クドリン氏も「ロシアには大きな影響はない。短期的に金融市場が不安定となる可能性があるだけだ」と述べた。さらに、ロシア中銀もロシアに直接のリスクをもたらさないとしている。
ズベルバンク子会社の投資銀行ズベルバンクCIBは「国際資本市場へのアクセス制限は英国のEU離脱問題による影響からの防波堤になっている。ロシアは外国からの資金供給経路を制裁によって事実上閉ざされており、これは経済成長にマイナスの影響をもたらしているが、国際市場の変動に対する耐性も上昇している」と指摘している(「ベドモスチ」紙6月25日)。
<原油市況の回復や対外情勢緩和に期待も>
一方、ロシアにとって英国のEU離脱問題をメリットと捉える有識者もいる。開発対外経済銀行(VEB)のアンドレイ・クレパチ総裁は「ロシアを含む新興国市場へ投資家の関心が戻ることが期待される。原油市況の回復に貢献し、想定されている2017年以降のロシア経済の成長にも貢献する」とした(「ロシア新聞」6月24日)。
また、ロシアを取り巻く対外情勢の緩和につながるという指摘もある。ロシア連邦政府付属財政大学のボリス・ヘイフェツ教授は「ロンドンは対ロ経済制裁を維持する必要はない」とし(「ロシア新聞」6月14日)、ロシア国立高等経済学院世界経済・政治学部のアンドレイ・スズダリツェフ副学部長も「モスクワは(EU本部のある)ブリュッセルの立場を考慮せずに、ロンドンと直接交渉する可能性を得た。今後はブリュッセルからの批判は回避できる。ロシアを取り巻く状況を緩和する」と述べた。ドボルコビッチ副首相も「欧州においてロシアは強いパートナーとして必要とされている」としている(タス通信6月18日)。
さらに、コンスタンチン・コサチョフ連邦上院国際問題委員長は「EU離脱問題は英国にとって、ロシアとの協力に向けた柔軟でオープンな選択のために必要。経済制裁については、新しく、より中身のある議論を始めたい」と提案した(「イズベスチヤ」紙6月24日)。
<在ロシア日系企業は「影響はほとんどない」と回答>
英国がEUの対ロ制裁から脱退するのではないかとの観測もあるが、ロシア進出日系金融機関にヒアリングしたところ、「EU離脱は早くて2年後。現時点でも制裁は流動的であり、予測不可能」「英国が対ロ制裁から脱退しても、拠点を持つ国々の法令を順守しなくてはならない上、少なくとも米国の対ロ制裁には従わないといけない」などのコメントがあった。また、ロシアビジネスへの波及について、英国に工場を持ちロシアへ輸出している日系メーカーは、ポンド安による影響は多少あるかもしれないが、ほとんどないとした。
(齋藤寛、ワレリー・エスキン)
(ロシア、英国)
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