英国の離脱通知への猶予、EU側も一定の理解-キャメロン首相が欧州理事会後に会見-

(英国)

ロンドン発

2016年07月01日

 EU各国の首脳が会する欧州理事会が6月28日、開催された。デービッド・キャメロン英首相は会議後の会見で、国民投票の結果について各国首脳から一定の理解が得られたとし、EU離脱条項〔EU基本条約(リスボン条約)第50条〕に基づく通知に猶予を与えるというのが大半の出席者の認識だったと印象を語った。

<英国の決断尊重に理解との印象>

 10月の保守党大会までの辞任を表明しているキャメロン首相にとっては、今回のEU理事会への出席が最後となる。会議後に会見に臨んだキャメロン首相は、国民投票の結果を他のEU加盟国首脳に説明したところ、全体的に重苦しい雰囲気ではあったものの、英国の決断を尊重することに対し幅広く理解が得られたという認識を語った。その上で、貿易や安全保障などの面で緊密な関係性を追求することが必要という認識を英国とEUの双方で共有しているとした。当面の関係性については、EU離脱が実現するまではEU加盟国としての義務・権利を持つことが確認された、と語った。

 

 今後進められるEUとの交渉に当たっては、加盟国としての応分の負担をしない以上、加盟国としての全ての便益を享受することは不可能という原則に立脚することが肝要とし、交渉ではこの原則に十分に留意することが必要、と述べた。

 

 また、正式な交渉の引き金となるEU離脱条項に基づく通知について、直ちに英国の行動を求めるような雰囲気ではなかった、と会議の印象を語った。英国としての交渉の進め方については、交渉の具体的な絵姿を描き、実際にEUに離脱を通知するのは次の首相と内閣の役割となると、次期政権に一任する姿勢をあらためて示した。

 

<移民を懸念する声への対処が大きな課題>

 その後の質疑応答では、国民投票を実施したことや、その結果として離脱が選択されたことに対する後悔や、残留派が多数を占めた若年層への認識などについての問いが投げ掛けられた。これらに対しては、結果自体は遺憾だが、国民投票に至る経緯に後悔はなく、キャンペーン期間中もあらゆる説明を尽くしてきたことから、示された結果を受け入れる、と語った。

 

 次期政権やEU各国首脳に対して国民投票により得られた教訓を問う質問には、経済的な影響はもちろんだが、多くの人の頭の中には移動の自由や移民についての大きな懸念が存在しており、これが主権の問題にも絡んでいると答えた。この点をEUは考える必要があり、英国の次期首相にとっても大きな問題だ、と注意を促した。

 

 さらに、離脱の通知やEUとの交渉の見通しなどをあらためて問う質問に対しては、次期首相の判断によるもの、として明言を避けた。

 

 一方、キャメロン首相を除いて翌29日に継続された会議では、可及的速やかに離脱の通知がなされるべきことや、それまでは英国との間でいかなる交渉も行わないことなどが合意された。

 

(佐藤央樹)

(英国)

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