上半期の自動車生産・販売は20%超の減少-輸出回復など好材料も-

(ブラジル)

サンパウロ発

2016年07月20日

 ブラジルの2016年上半期の自動車生産、販売台数はともに前年同期比で20%超落ち込み、メーカーの一部は生産台数を抑え在庫調整を続けている。一方、国内市場ではスポーツ用多目的車(SUV)カテゴリーが伸びており、輸出もアルゼンチン向けが回復するなど、好材料も見いだせる。

<販売台数は約10年前の低い水準に>

 全国自動車製造業者協会(Anfavea)は76日、2016年上半期の自動車生産、販売統計を発表した。生産台数(トラック・バスを含む)は前年同期比21.2%減の1016,680台、国内販売台数(トラック・バスを含む、新車登録ベース)は25.4%減の983,536台だった。Anfaveaのアントニオ・メガレ会長は、6月単月の販売台数が171,800台と20163月(179,200台)に次ぐ実績だったことに触れ、ここ数ヵ月の市場動向は安定している、と評価した。ただ、現在の販売台数は約10年前の低い水準にとどまっており、自動車産業の状況は依然、深刻としている(Anfaveaプレスリリース76日)。

 

 地元報道によると、6月は現代、ルノー、イベコの工場が一時休業したことに加え、フォルクスワーゲン(VW)の工場も部品供給の問題で一時、生産を中断していた。また、2014年にサンパウロ州ジャカレイ市で工場を稼働した奇瑞汽車(Chery)も7月から5ヵ月間、操業停止の予定という(「バロール・エコノミコ」紙76日)。同じ中国ブランドの江淮汽車(JAC)は、計画された生産投資を実施しなかったとして、開発商工省(MDIC)から新自動車政策イノバールアウトの税減免認可を取り消された(MDICプレスリリース531日)。同社はバイーア州のカマサリ工業団地に工場建設を計画し、2013年にイノバールアウトの認可を受けていた。しかし、計画が進まなかったことを受けて認可を取り消され、20132014年に輸入した自動車に適用された税減免分を返納することになる。

 

 このように、各自動車メーカーの生産は停滞している。20166月時点の自動車在庫は225,600台と39日分の販売台数に相当し、前月の41日分の在庫からは減少した。しかし、理想は30日分とされており、さらなる生産・在庫調整が必要とみられる。

 

<欧米メーカーの大幅減で日系シェアが上昇>

 メーカー別の販売動向をみると、これまで小型大衆車が販売の主力だった欧米メーカーのシェアが大幅に低下したため、高付加価値の車種をそろえる日系のシェアが相対的に高まった。トヨタは2016年上半期でフォードを抜き、4位に上昇した(表参照)。同社とホンダ、日産、そして三菱自動車とスズキの委託生産をする現地資本HPEを合わせた4社合計シェアは、前年同期の16.1%から19.0%に上昇した。全国自動車販売業者連盟(Fenabrave)のデータによると、トヨタは上半期に主力の中型セダン「カローラ」(販売台数31,891台、前年同期比0.1%減)に加えて、小型車「エティオス」(3137台、1.5%増)がほぼ前年同期並みの水準を維持した。ホンダはSUVの「HRV」の販売(3882台、75.7%増)が伸びた。

 

 自動車メーカーは市場停滞の中で、大衆車より付加価値の高いモデル投入を積極化している。特にSUVカテゴリーは好調で、販売台数全体に占めるシェアは2016年上半期に17.8%(144,056台)と前年同期の12.8%(133,664台)から上昇した。「HRV」は国内のSUVでトップシェアを占めるが、欧米メーカーも同カテゴリーで追い上げている。新車販売でトップシェアを維持するフィアットクライスラー・オートモービルズ(FCA)は、2015年に販売を開始したジープブランドのSUV「レネゲード」(25,698台、前年同期比4.1倍)やフィアットブランドのピックアップ「トロ」(15,743台、20162月に販売開始)が好調だ。自動車業界のアナリストは、自動車市場の商品構成の変化と、販売価格が7万~10万レアル(約224万~320万円、1レアル=約32円)のゾーンでの高い更新需要を指摘している(「DCI」紙712日)。各メーカーとも、SUVのように販売拡大の余地が大きく、値頃感の出せる高付加価値カテゴリーの開拓を急ぐ。

表 メーカー・ブランド別自動車販売台数(注1)

<アルゼンチンやメキシコ向けなど輸出が回復>

 一方、ブラジルからの自動車輸出台数(トラック・バスを含む)は前年同期比14.2%増の226,645台と健闘している。Anfaveaは上半期ベースの相手国別輸出統計を公表していないため、MDICの貿易データベース(Alice)で乗用車(HS8703)の輸出台数を確認すると、国別1位のアルゼンチン向けは46.4%増の162,112台と大幅に増加した。以下、メキシコ向けが83.6%増の25,556台、コロンビア向けが2.2倍の5,860台と続く。

 

 アルゼンチン向けの自動車輸出は、2015年まで厳しい外貨・輸入制限があったため停滞したが、同年12月にマクリ政権が発足して以降、対外開放政策が進み、同国向け輸出が急速に回復した。ここ10年間でみたアルゼンチン向け上半期の乗用車輸出台数のピークは2013年の18549台で、同年との比較でみると2016年上半期はかなり回復していることがうかがえる。

 

<アルゼンチンとの自動車協定を改定し4年間延長>

 アルゼンチンとブラジルの間には、ラテンアメリカ統合連合(ALADI)経済補完協定(ACE14号に基づく自動車協定が存在する。同協定について両国政府は2016624日、630日で期限の切れる現行の協定を当面維持し、2020630日まで4年間延長することを決めた(ACE14号の第42追加議定書)。協定では、両国の自動車・同部品輸出入額に関して均衡係数を定め、その係数の範囲内であれば相互に輸入税を免除する仕組みがある。

 

 新協定での均衡係数は前協定と同じ1.5だ。つまり、ブラジルがアルゼンチンから自動車・同部品の合計額1.0を輸入した場合に、アルゼンチンへの輸出額1.5までは相手国側で輸入税が免除される。なお同係数は、改定されたACE14号第11条で、201971日から1.7に拡大され、202071日以降、自動車分野を自由貿易に移行する可能性が言及されている。ただ、これらが適用されるかどうかは、「両国の生産統合が進み、同セクターの生産構造および貿易のバランスの取れた発展がみられる場合に」という条件が付く。それでも、ブラジル側政府関係者と自動車業界からは、前回の協定更新のように単年度ではなく4年間という中期にわたって協定内容が確定し、先行きが見通せるようになった点を評価する声が上がっている(「オ・エスタード」紙625日)。

 

(二宮康史)

(ブラジル)

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