西海岸でも広域経済連携に高い関心、メリット拡大探る-「アジア太平洋の経済統合と日米の役割」セミナー(2)-

(米国)

ロサンゼルス発

2016年07月14日

 「アジア太平洋地域の経済統合と日米の役割」をテーマにしたセミナー報告の後編。ジェトロが6月10日にロサンゼルスで開催したセミナーは、南カリフォルニア大学(USC)マーシャル・スクール・オブ・ビジネスとの共催となった。米国最大の貿易取扱量を誇る港を有するロサンゼルスはアジアのゲートウエーといわれており、アジアとのビジネスや経済連携の影響について関心が高く、政府や学界、産業界の関係者ら約170人が参加した。

TPPが西海岸にもたらすメリットに期待>

 ロサンゼルスのセミナーは、614日の戦略国際問題研究所(CSIS)共催の同じテーマでのセミナーに先立って開催された。在ロサンゼルス総領事館の堀之内秀久総領事による来賓あいさつに続き、ジェトロの石毛博行理事長とUSCマーシャル・スクール・オブ・ビジネスでグローバル・サプライチェーン・マネジメント上級部長を務めるニック・ヴァイアス氏による基調講演が行われた。その後、USCマーシャル・スクール・オブ・ビジネス学長のリチャード・ドロブニック氏をモデレーターに、ウェルズ・ファーゴ銀行国際グループ上級副社長のペリー・モレス氏、ブライアン・ケーブ法律事務所のクリフ・バーンズ弁護士、USCマーシャル・スクール・オブ・ビジネスのダグラス・ジョインズ教授(金融・ビジネス・経済学)、日本経済新聞社の太田泰彦編集委員兼論説委員がパネルディスカッションを行った。

 

 堀之内総領事は「南カリフォルニアには外国企業が集積しており、ロサンゼルス・ロングビーチ港においても日本を含むアジア諸国との貿易量が圧倒的だ。本セミナーは非常にタイムリーであり、環太平洋パートナーシップ(TPP)がアジア太平洋経済圏にもたらす可能性を知る良い機会だ」と述べた。続く基調講演で、石下理事長は、TPPに関し、その歴史的な重要性、大筋合意後のアジアでの動き、参加国の責務、今後の挑戦、の4つの観点から、TPPを中心としたアジアの経済統合について述べた(2016年7月13日記事参照)。ヴァイアス上級部長は、「TPP12ヵ国間の市場を開放することで、計り知れないビジネスの機会をもたらす。企業の生産性は高まり、新たなサプライチェーンが促進される。米国企業の中国市場へのシフトがしばらく顕著だったが、TPPによりアジア太平洋広域経済圏が注目を浴びることになる。TPP加盟国の発効手続きは進行中であり、米国を含めて課題が残るが、広範な自由貿易経済圏の誕生は世界経済にとって非常にポジティブな影響を与える」と述べた。

 

<経済効果を高めるための方策を有識者が議論>

 パネルディスカッションでは、USCマーシャル・スクール・オブ・ビジネスのドロブニック学長が冒頭に、USCはアジア経済に高い関心を持ち、TPPが世界にもたらす経済効果について注目している、と語った。

 

 ウェルズ・ファーゴ銀行のモレス上級副社長は「米国はTPP加盟国のうち6ヵ国とは自由貿易協定(FTA)を締結済みで、TPPの経済効果に疑念を抱く声があるのは事実だ。しかし、TPP加盟国は世界全体の3分の1GDPを構成し、世界貿易の4分の1を占める巨大経済圏を形成する。米国にとって、11ヵ国との貿易・投資がTPPで自由化されるメリットは大きい。万が一、米国がTPP批准を見送った場合は、そのデメリットの方が大きい」と述べた。

 

 ブライアン・ケーブ法律事務所のバーンズ弁護士は「TPPのルールではサービス、コンテンツ、情報通信などの貿易には関税がかからない。『モノ』が存在しないコンテンツなどの貿易は急速に拡大しており、誰がどのように課税するかについての基準を早急に構築する必要がある」と指摘した。

 

 続いて、USCマーシャル・スクール・オブ・ビジネスのジョインズ教授は「TPPにより加盟国の生産性が高まり、イノベーションが促進される。それに伴い、高い技術を持った労働力のニーズは増えるが、TPP加盟国間で労働力をうまくシフトするための流動的な労働・移民政策が求められる。マレーシアやベトナムは国内市場が小さいことから、TPPで大きく成長がみられるだろう。米国が恩恵を受ける分野としては農業、貿易関連事業、サービス産業が期待される」と主張した。

 

 日本経済新聞社の太田氏は「ASEANは経済共同体だが、TPPASEANを分断しているようにみえる。タイ、フィリピン、インドネシアはTPPに加盟しておらず、関心を持って見守っている状態だ。これらの国を加盟に導くことで、TPPのメリットは拡大する。そのためにも、日本と米国のTPP批准は必須で、日米間の協力が不可欠だ」と述べた。

 

TPP加盟国は中堅・中小企業の活用支援を>

 質疑応答では、「TPPは中小企業にとってメリットはあるのか。具体的にどのような恩恵があるのか」との質問が会場から出た。ヴァイアス上級部長は「大企業にとってTPP活用は容易な一方、中小企業には煩雑な手続きを要するTPPはハードルが高い。しかし、従来のビジネスモデルに捉われず、TPPを活用すれば中小企業は大きな機会を得る。電子商取引などを利用して、この機会を活用すれば恩恵を受けることができる」と答えた。石毛理事長は「日本を例に挙げれば、7割の企業はTPPで海外でのビジネス機会を探す契機とみているとの調査結果がある。日本政府とジェトロは、中小企業の輸出支援やTPPの活用方法などのアドバイスを行っている。TPP加盟国は中小企業がメリットを受ける仕組みを今後構築すべきで、それが各国経済を成長させるカギとなるだろう」とした。

 

 セミナー終了後のレセプションでは、各国の領事館や貿易振興団体など12機関が各事業をビジネス関係者に対して紹介した。会場ではセミナーの登壇者を交え、産業界、政府関係者らが活発に意見交換した。

 

(サチエ・ヴァメーレン)

(米国)

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