タイのエアコン製造に顕著な伸び-2国間と多国間のFTAをうまく活用-

(アジア)

バンコク発

2016年06月15日

 ASEAN域内のエアコン製造においてタイの存在感が高まっている。ASEAN域内やインド向け輸出で顕著な伸びがみられるからだ。ASEAN物品貿易協定(ATIGA)や、タイと周辺国との2国間・多国間レベルの自由貿易協定(FTA)の進展がその背景にあると考えられる。

<中国が伸び悩むASEANとインド向け輸出>

 アジア域内でエアコンを製造し輸出している主な国は中国、タイ、マレーシアだが、それぞれ輸出の傾向には違いがみられる。表1は、これら3ヵ国の輸出動向を主要な輸出先国・地域別に、2006年と2015年の輸出額と、その合計額に占めるそれぞれの国の割合を示している。

表1  中国、タイ、マレーシアのエアコン輸出

 輸出額が最も多いのは中国で、2015年は69%を占めた。中でも日本向けは85%、米国向けは86%を占め、他国・地域向けと比べ割合が高い。一方、この10年間で割合が増えていないか減少が目立つのは、ASEAN向けとインド向けだ。それぞれ輸出額は伸びているが、ASEAN向けは33%と横ばい、インド向けは68%から55%に減少している。

 

 これに対して、ASEANとインド向けを伸ばしているのがタイだ。この10年間でASEAN向けはシェアが40%から47%に、インド向けも30%から40%に高まった。マレーシアは全体の輸出額は伸びたものの、大半の市場において存在感を発揮できていない。

 

 こうした背景にはASEAN自由貿易地域(AFTA)やASEAN物品貿易協定(ATIGA)などの影響があるとみられる。例えば、タイからフィリピンに輸出する場合は、AFTAにより関税はゼロになるが、中国からフィリピンに輸出する場合は最恵国税率(MFN税率)の10%が課税される(注)。タイからインドに輸出する場合も、タイ・インド経済協力枠組み協定により関税はゼロになるが、中国からの輸出の場合は、インドとのFTAがないため、MFN税率10%が適用される。また、マレーシアからフィリピンに輸出する場合は、タイと同様に関税はゼロになるが、マレーシアからインドに輸出する場合は、ASEANインドFTAAIFTA)に基づいたとしても5%までしか削減されず、タイの条件に比べ不利だ。タイに集積するエアコンの生産拠点は、FTAのメリットを最大限活用することにより、中国製品、マレーシア製品よりも関税面でのメリットが大きくなる。

 

ASEAN域内と域外を隔てるFTA

 表2は、ジェトロが20151011月に実施した「2015年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」を基に、電気機械器具分野においてASEAN向けに輸出入を行っている日系企業のFTA利用状況をまとめたものだ。それによると、ASEAN域内でのFTA利用率は必ずしも高いとはいえない。

表2 電気機械器具分野の日系企業によるASEAN向け輸出・輸入におけるFTA利用状況

 FTAは輸入時に関税の減免措置を受けられるため、主に輸入者側に利用の動機が働きやすいはずだが、輸入者が「利用していない(予定なし)」と回答する割合が高い。これは、これらの国に進出している日系企業が部品を輸入し、製品として再輸出することが多いためとみられる。つまり、部品を保税状態で輸入した時の関税は免除されるが、たとえ関税を支払った場合でも製品の再輸出時に還付されることから、輸入時にあえてFTAを利用する必要はないためと考えられる。ASEAN域内に部品を輸出する場合も、製品完成後に再輸出する前提であれば、輸入者にFTAを利用しようという動機が働きにくいことが想定できる。

 

 しかし、ASEANを輸出拠点としてではなく市場として捉えると、域内と域外を隔てるFTAの存在が有利に働くことがある。アジアで最適な製造拠点を考える際には、FTAの効率利用も考慮に入れる必要があるといえよう。

 

(注)ここでのエアコンの関税率は、HS8415.10を参考にしている。タイからベトナムへの輸出の場合は、AFTAにより5%(マレーシアも同様)となるが、同じく中国からベトナムへの輸出は、ASEAN中国自由貿易地域(ACFTA)により10%または15%となる。ベトナムの場合、エアコンに対するMFN税率が20%(または30%)のため、20%以下とするためには何らかのFTAの条件を満たす必要があるが、中国とのFTAを利用するよりAFTAを利用した方が有利となる。

 

(小島英太郎、伊藤博敏)

(アジア)

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