移民やEU官僚への嫌悪・反感が影響か-主要紙が離脱選択の要因分析-

(英国)

ロンドン発

2016年06月25日

 英国のEU残留・離脱を問う国民投票の結果について、英国の報道各紙が要因を分析した。移民問題やEU官僚主義への反感、EU改革案への不満などが影響したと指摘している。

<離脱派が国民投票に巧みな戦略>

 「離脱」が選択された国民投票の結果について主要紙は要因を分析している。「フィナンシャル・タイムズ」紙は、EUの官僚主義への嫌悪とグローバリゼーションへの反感が今回の結果につながったとの見方を示した。例えば、イングランド地域に着目すると、ロンドンでは残留が大多数を占めたのに対し、北西部・北東部などイングランド地方部では離脱派の勢いが強かった。世界都市の代名詞でもあるロンドンと、グローバリゼーションの波に取り残された地域とで明確に結果が分かれたかたちだ。

 

 「テレグラフ」紙も同様にイングランドにおける離脱派の勢いの大きさが影響したと指摘。イングランド東部の若年層の失業率は33%に上り、かつての海岸リゾート地域の衰退は、EUと増加する移民により引き起こされているという認識が高まっていた。

 

 「ガーディアン」紙は、5つの主要な要因を挙げ、結果について説明している。1つ目は、増加する移民への反感の強まりだ。移民問題にも絡めた離脱派のスローガン「主権を取り戻せ(Take back control)」は、有権者に訴えるのに極めて有効だったとされる。2つ目が、EUのエリート官僚への反感で、キャンペーン期間中にEUの官僚主義への反感が高まったとされる。3つ目が、台頭著しい英国独立党(UKIP)の存在だ。そもそもデービッド・キャメロン首相が国民投票の実施を迫られることになったのは、UKIPの台頭によりEUに懐疑的な動きが高まってきたことにも起因するとみられている。4つ目は、キャメロン首相がEUとの間でまとめ上げたEUの改革案だ。キャメロン首相が2013年に示した改革案が国民の期待を過度に高めたのに反し、20162月にEUとの間で合意した改革案は、合意のタイミングが遅れ、EUの硬直性と不寛容性を強調するのみだったと分析している。最後の5つ目が、ボリス・ジョンソン前ロンドン市長と、マイケル・ゴーブ法相の存在だ。当初離脱を支持するのは右派勢力とみられていた中、政治的な影響力が大きくキャメロン首相の盟友でもある2人が離脱支持に回ったことで、離脱派を勢いづかせてしまったとされる。

 

 「タイムズ」紙は、国民投票では離脱派が巧みな戦略を展開したと評価している。離脱が多数を占めた地域においてとりわけ投票率が高かった点を指し、政治やビジネスエリート層に対して反感を持つ庶民をうまく結集したと分析している。

 

(佐藤央樹)

(英国)

ビジネス短信 f85da5d7e55c1c53