世論は拮抗、国民投票の行方が読めない展開に-英国のEU離脱問題(1)-

(英国)

ロンドン発

2016年06月21日

 英国では6月23日に、EU残留か離脱かを問う国民投票が実施される。各種世論調査では残留と離脱はほぼ拮抗(きっこう)し、その行方は分からなくなっている。英国のEU離脱〔ブレグジット(Brexit)〕問題について、その概要と論点、そして日本企業に与える影響を3回連載でまとめる。1回目は世論の動向とBrexit問題の主な論点について。

<残留派、離脱派が世論を二分>

 英国の選挙委員会は、413日にそれぞれ残留派と離脱派の公式キャンペーンを実施する団体を発表した。公式陣営として、残留派はデービッド・キャメロン首相をはじめ主要閣僚が率いる「ブリテン・イズ・ストロンガー・イン・ヨーロッパ」が、離脱派はマイケル・ゴーブ法相やボリス・ジョンソン前ロンドン市長を主要メンバーとする「ボート・リーブ」が入り、それぞれ公式キャンペーンを開始した。

 

 公式陣営には入らなかったが、ほかに労働党とスコットランド国民党(SNP)が残留を、英国独立党(UKIP)が離脱を主張し、これらの団体も交えて、チラシ配布や戸別訪問、路上、集会など英国全土でキャンペーンが大規模に展開されてきた。

 

 英国産業連盟(CBI)や英国自動車製造販売者協会(SMMT)、英国労働組合会議(TUC)などの団体は残留支持を表明したが、全国に900店舗を経営するパブチェーンのJDウェザースプーン(JD Weatherspoon)の創業者ティム・マーティン氏や家電大手ダイソンの創業者ジェームズ・ダイソン氏ら英国を代表するビジネスパーソンが離脱を支持するなど、世論は二分し、中小企業を多く会員に抱える英国商工会議所(BCC)や小規模企業連盟(FSB)は会員へのアンケートで拮抗した結果が出たことから、中立の姿勢を決めた。

 

<残留派は経済、離脱派は移民問題が論点>

 残留、離脱それぞれの陣営が主張する論点は、主権や経済、規制・競争力、移民、安全保障、スコットランド独立問題など幅広い分野に及んでいる。しかし、投票を間近に控え、残留派は経済問題、離脱派は移民問題、と議論の焦点がほぼ絞られてきた。

 

 残留派の論点であるEU離脱の経済への悪影響については、残留派は、離脱すればEUの巨大市場へのアクセスにおいて、関税や規制など、貿易・投資面で大きく制約を受けると主張。OECDIMF、民間シンクタンクなどが、離脱した場合の経済への影響について数多くの試算を発表しているが、英国財務省が4月に発表した試算では、長期(15年後)的にはGDP3.87.5ポイントの減少、1人当たりGDP1,1002,100ポンド(約167,200319,200円、1ポンド=約152円)の減少、1家計当たりの所得が年間2,6005,200ポンド減少し、税収も減少するとしている。また、離脱後のEUとの交渉の不透明さなどから、企業が投資・雇用を削減し、金融市場もリスクを考慮して貸付利子を上昇させることにより、短期予測(2年後)でも、GDP3.66.0ポイントの減少、物価上昇率が2.32.7ポイントの上昇、失業率が1.62.4ポイントの上昇となり、52万~82万人の失業、為替の1215%の下落が見込まれるとしている。

 

 一方、離脱派の論点である移民問題については、離脱派は、移民は文化的・社会的・経済的に英国に恩恵があるとしつつも、英国政府が自身で移民をコントロールできないことは問題だと主張。2015年のEU域内からの移民は27万人で、純移民数は184,000人とオックスフォードの人口と同規模に上っており、こうした移民の増大により、学校や病院などの公共サービスに負荷がかかっているとしている。ユーロ危機が続くと、失業や緊縮財政から逃れようと南欧からの移民が英国に押し寄せ、また現在、EU加盟申請中のアルバニア、マケドニア、モンテネグロ、セルビア、トルコからの移民も大量に流入すると警鐘を鳴らしている。移民は英国内の隅々までおり、経済を支えると同時に、EU加盟の経済的恩恵を受けていない低所得者層や小規模事業者を、離脱支持に向かわせる大きな要因となっている。

 

(佐藤丈治)

(英国)

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