最低賃金を7月から2.4%引き上げ
(オーストラリア)
シドニー発
2016年06月23日
オーストラリア公正労働委員会(FWC)は5月31日、2016/2017年度(2016年7月~2017年6月)の労使裁定を発表した。7月1日から全国の最低賃金を一律2.4%引き上げ、週給672.7オーストラリア・ドル(約5万2,471円、豪ドル、1豪ドル=約78円)、または時給(週38時間労働)17.7豪ドルとした。
<低賃金労働者の生活水準向上を目指す>
労使裁定は、業種ごとに労働条件を設定した法的な文書で、労働条件の最低水準を設定している。業種ごとに裁定され、賃金水準も裁定ごとに異なっている。今回の裁定で最低賃金は一律2.4%の上昇となり、2015/2016年度と比べると、週給は15.8豪ドル、時給は0.41豪ドル増加した。
今回の最低賃金の引き上げに関してFWCが発表した声明によると、インフレ率と賃金の伸び率は歴史的な低水準にあり、今後も低調な伸びが続く、との見通しを示した。一方で、2015年のGDP成長率は2014年に比べて拡大していることや、過去5年間の生産性もそれ以前に比べ改善していることから、経済環境には楽観的な見方を示した。その上で、賃金の引き上げは経済におけるインフレ圧力とはならず、オーストラリアの競争力をそぐものではない、と結論付けた。また労働市場については、2016年初に総労働時間が減少したものの、失業率が改善したことから健全だとした。労使裁定を策定するに当たって、FWCは経済指標だけではなく、社会的見地からも検討することを求められており、今回は「労働参加率の上昇を通じた格差のない社会の実現」「同一職務、同一賃金」といった観点からも検討を行った。FWCは、低賃金労働者の生活水準はわずかに改善しているものの、相対的な生活水準は過去10年間で悪化した、との認識を示した。また、多くの低賃金労働者は所得の低い家庭に暮らしており、一部は貧困レベルを下回っていることを懸念した。女性の賃金については、裁定で定められた最低賃金しか支払われない場合が多いことに懸念を示し、今回の最低賃金引き上げが性別による賃金格差を縮小させるための一助となることを期待する、とした。
<労組側は「不十分」と批判>
今回の裁定に対して、「オーストラリアン」紙(6月1日)は「雇用者と組合は週給の引き上げ額が15.8豪ドルとなったことに不満だ」との記事を掲載し、雇用者側と組合側のコメントを紹介している。記事によると、オーストラリア労働組合評議会(ACTU)のデェィブ・オリバー議長は最低賃金の引き上げを歓迎する一方で、「FWCは平均賃金労働者と低賃金労働者の拡大する賃金格差を是正する機会を逃した。企業利益の増加や生産性の向上、経済成長を遂げながら、最低賃金は15.8豪ドルしか引き上げられなかった。インフレの影響を考慮すると、週給は6豪ドルしか上昇していないことになる」とし、今回の裁定は不十分だと批判した。
<ビジネス界は賃金上昇圧力を懸念>
一方、ビジネス界は、低インフレ率の中で高い賃金に対応しなければならないことや、今回の裁定が経済全体に対して賃金の上昇圧力となる可能性があることに、懸念を示した。中小企業が加盟しているオーストラリア商工会議所(ACCI)のジェームズ・ピアソン氏は、追加的なコストは雇用環境に悪影響を及ぼしかねない、と懸念している。その上で、「失業者の求職活動に影響があるだろう。失業者は再就職先として高度な技術を必要としない、低賃金の仕事に就くケースが多い。今回の賃金の引き上げ幅は決しては大きくないとはいえ、多くの小規模企業は現時点でも苦労をしており、新たな雇用を増やすことはできないだろう」と述べ、賃金上昇が小規模企業の雇用の抑止圧力になる可能性を指摘した。
オーストラリア産業連盟(AiGroup)のイネス・ウィロックス会長は「今回の裁定は低い賃金上昇率や低インフレといった現状に見合っていない。経済やビジネス環境が先行き不透明な時期における最低賃金引き上げは企業に対して大きな負担を強いる。特に、現在失業中もしくは労働時間を増やしたいと考えているパートタイム労働者にとって不利益をもたらすだろう」として、今回の裁定が企業の雇用や労働者の働き方に対して、不利益を及ぼす可能性があることを訴えた。
(平木忠義、ケビン・ギブ)
(オーストラリア)
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