賃金差別禁止法などで雇用主の義務が拡大-2016年のカリフォルニア州雇用法改正-

(米国)

ロサンゼルス発

2016年06月09日

 労働者に配慮した法整備がみられるカリフォルニア州で、2016年もさまざまな雇用関係の州法が改正され、1月1日から施行されている。賃金差別禁止法などの法律では、従業員の権利行使に対して、雇用主による解雇、差別、報復を禁止した。また、連邦法などで義務付けられている場合を除き、連邦移民局が運営しているデータベースを利用した従業員の就労資格の確認は禁止されたため、同州に拠点のある日系企業は注意が必要だ。

<子供の学校関連の休暇取得の対象広げる>

 従来、1つの拠点に従業員が25人以上いる雇用主は、子供の学校行事への参加を理由に休暇を取得する従業員に対し、解雇や差別をすることは禁止されていた。認定を受けている保育所や幼稚園、1年生から12年生(日本の高校3年生に相当)の子供の親権を持つ親、保護者、祖父母は、学校行事に限り年間40時間まで休暇の取得が認められていた。

 

 今回の改正で、(1)学校行事だけでなく、学校探し、入学、再入学、学校からの緊急呼び出しなどの対応を理由とした休暇の取得も認めること、(2)対象となる従業員は継親、里親、法的に親の代わりに責任がある者も含むこと、(3)「認定を受けている保育所や幼稚園」を「認定を受けた育児や保育を行うサービス提供者」に変更し、対象者や対象活動の範囲を拡大、とした(Senate Bill No.579 Chapter 802)。

 

<性差による賃金差別禁止の範囲を拡大>

 賃金差別禁止法(Senate Bill No.358 Chapter 546)ではこれまで、従業員が自己の給与を他の従業員などに開示しないことを条件に雇用したり、開示した従業員に対して差別したりすることを禁止している。また、年功序列制度や能力給制度、従業員が作る製品の質や量に基づく給与制度などの合理的理由がある場合を除き、同等の技術や努力、責任を必要とする同じ仕事環境において、性別で賃金差をつけることも禁止されている。

 

 今回の改正で、(1)仕事環境が同じでなくても、実質的に必要な技術や努力、責任が同等であれば性別で賃金差をつけることは禁止、(2)賃金差が生じる場合に、性別ではなく年功序列制度、能力給制度、従業員が作る製品の質や量に基づく給与制度などの合理的理由によるものであることの証明責任は雇用主が負う、(3)従業員がこの法律の権利を行使した場合に解雇、差別、報復することを禁止、(4)仮に(3)によって不利益を被った従業員は民事裁判で復職や、失った賃金と給付金を利息付きで取り戻すことができる、(5)雇用主は従業員が自己の賃金を開示したり、他の従業員に賃金を相談したり、聞いたり、この法律で保護される従業員の権利行使を支援したり、促したりすることなどの行為を禁止できない、(6)従業員の賃金などの記録を雇用主が保持すべき期間を2年から3年に延長する、とした。

 

<障害や信仰宗教に対する便宜要求への報復・差別を禁止>

 州法は、州民が人種、宗教、肌の色、国籍、家系、身体的障害、精神的障害、医療状態、遺伝子情報、婚姻の有無、性別、性別認識、性的表現、年齢、性的志向、兵役の有無、を理由とした差別、権利の剥奪を禁止している。また、嫌がらせなく職を探し、職に就き、職を維持する権利と機会を保護している。さらに、従業員の障害や信仰宗教に対して、雇用主は妥当な便宜を図ることを義務付けている(Assembly Bill No.987 Chapter 122)。

 

 今回の改正で、雇用主が便宜を図るかどうかにかかわらず、障害や信仰宗教を理由に便宜を図るよう要求する従業員に対して、雇用主や他の従業員などが報復したり差別したりすることを禁止した。

 

<就労資格の照会を制限>

 雇用主は従業員に給与明細書の配布が義務付けられているが、その記載情報の誤りについて、(1)対象給与期間、(2)法律上の会社名と住所、に誤りがある場合、33日間の修正期間を認め、期間内に修正すれば民事訴訟は避けることができるようになった(Assembly Bill No.1506 Chapter 4452015102日施行)。

 

 従業員に就労資格があるかどうかを確認する方法の1つとして、連邦移民局(USCIS)が運営するデータベース「EVerify」にアクセスし、連邦政府に登録されている記録と照合する方法がある。州によっては雇用主にEVerifyの使用を義務付けているが、カリフォルニア州は任意とされている。また、州法は従業員の権利行使に対する報復として就労資格を理由に、雇用主が脅迫などの不正行為を行うことを禁止している(Assembly Bill No.622 Chapter 696)。

 

 今回の改正で、連邦法などにより利用が義務付けられている場合を除いて、既存の従業員や採用通知を受け取っていない候補者に関して、雇用主がEVerifyを利用することを禁止した。違反した場合、1回の違反につき1万ドルの民事制裁金が科せられる。

 

<失業保険書類の電子提出を義務化へ>

 20171月から、従業員が10人以上いる雇用主(20181月からは対象が全ての雇用主に拡大)は、四半期ごとにカリフォルニア州労働開発局(EDD)に提出する失業保険の保険料納付に関する書類を、EDDが定めるオンラインサービスを利用して提出しなければ、50ドルの罰金が科される(Assembly Bill No.1245 Chapter 222)。なお、本改正には経過措置があり、201711日から201911日までは、期限内に書類を提出すれば、オンラインサービスを利用しない場合でも罰金の対象にはならない。

 

 以上が主な改正の概要だが、ここで取り上げられていないもののほか、取り上げたものでも個別事情により取り扱いが異なる場合もあるため、詳細は雇用法を扱う弁護士や労務コンサルタントなど専門家に問い合わせることをお勧めする。

 

(桑田弦)

(米国)

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