EU首脳は離脱交渉を急ぐ方針-英政府に迅速な対応迫る姿勢-

(EU、英国)

ブリュッセル発

2016年06月28日

 EUの中枢を担う欧州理事会(EU首脳会議)、欧州委員会、欧州議会とEU議長国・オランダ首相は6月24日、ブリュッセルで英国での国民投票の結果について協議した。EU首脳らはEU加盟国の離脱手続きを定めたEU基本条約第50条に基づく離脱交渉を急ぐ方針だ。一部のEU首脳は「友好的な離脱などない」と発言しており、関係国際機関は双方に協調を求める声明を相次いで発表した。

2年以内がめど、猶予認めぬ方針>

 624日、欧州委のジャン・クロード・ユンケル委員長が、欧州理事会のドナルド・トゥスク常任議長、欧州議会のマルティン・シュルツ議長、そして、2016年上半期のEU議長国であるオランダのマルク・ルッテ首相を緊急に招集し、英国での国民投票の結果について協議した。同日、欧州理事会は声明を発表し、痛みを伴うとしても、英国政府には「国民の選択」をできる限り早く具体化することを求めるとの考えを示した。この声明では、特に「遅滞があれば、不透明感を不必要に長引かせる」とし、英国政府に迅速な対応を迫る姿勢だ。

 

 EU加盟国の離脱を規定したEU基本条約第50条は、離脱を決定した加盟国政府からの正式な通告をもって、離脱のための交渉を開始するとしているが、今回の声明は、この交渉に時間的な猶予を認めないEU側の方針を示す。

 

 この方針は、欧州委が624日に発表した「英国の国民投票に関するQA」でも「(英国のEU離脱のための交渉開始から)2年以内に合意(「離脱協定」が成立)しなければ、英国は何ら妥協を得られない状態でも、EUから離脱しなければならない」と明言している。また、この「QA」によると、離脱協定の承認のためには、英国を除く27ヵ国の72%以上の「賛成」を前提とする「特定多数決方式」での採決が求められ、さらに欧州議会の承認(こちらは単純多数決)も必要という。

 

<英国・EU双方の協調を求める国際機関>

 英国のEU離脱問題については、政治的な意味合いが濃厚で、国際社会に対する影響も無視できない。また、EU基本条約第50条に基づく離脱交渉の指揮を執る欧州委のユンケル委員長は「友好的な離脱などない」と発言しており、事態の緊迫を憂慮した国際機関は双方の協調を求める声明を発表している。「EUを離脱した場合、2019年までに英国のGDP5.6%も縮小(EU残留の場合との比較)する」との試算を617日に発表し、警鐘を鳴らし続けてきたIMFのクリスティーヌ・ラガルド専務理事は624日、「英国とEUの新たな経済関係への円滑な移行のために、緊密に連携するように両政府関係者に求める」との声明を発表。また、双方の中央銀行であるイングランド銀行と欧州中央銀行(ECB)に対して、(今後も混乱が予想される)金融市場に流動性をもたらす努力を求め、IMFは今後も事態の進展を注視し、必要に応じて支援を行う、とした。

 

 ECBは既に621日、欧州議会の経済・金融委員会にマリオ・ドラギ総裁が出席して「英国での国民投票の結果がどちらの場合でも対応する準備ができている」と報告していたが、624日にあらためて声明を発表し、「ユーロ圏の金融機関は資本・流動性の観点で問題ない」と強調している。

 

 また、NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は624日付で声明を発表し、「NATOにおける英国の地位は何ら変わりない」ことを強調した。同事務総長は「NATOEUとの協力関係も持続する」とし、7月にポーランド・ワルシャワで開催される予定の「NATO首脳会合」でも関係強化を図るとした。

 

(前田篤穂)

(EU、英国)

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