欧州委がeコマース促進に向けた法案と政策文書を発表-さらなる負担増に産業界から懸念の声-

(EU)

ブリュッセル発

2016年06月07日

 欧州委員会は5月25日、域内のeコマースの環境整備に向けた複数の法案と政策文書を発表した。域内のeコマースの成長促進に向けて、EU域内の越境取引の煩雑さとコスト高など阻害要因を取り除くため、(1)不正な「地域制限」などの防止、(2)安価で効率的な越境宅配便サービスの実現、(3)消費者保護の強化、を打ち出した。

eコマースの越境取引の発展を目指す>

 欧州委によると、EU域内の商品のオンライン販売は、2000年から2014年にかけて年平均22%のペースで成長したものの、2015年の時点で他の加盟国の消費者にオンライン販売を行うウェブサイトは全体の37%にとどまったという。今回発表された一連の文書は、越境取引の促進によるeコマースの成長に向けて、越境取引の煩雑さやコスト高など阻害要因を取り除くため、(1)不正な地域制限などの防止、(2)安価で効率的な域内の越境宅配便サービスの実現、(3)消費者保護の強化、の3点を打ち出した。

 

<消費者の居住地などが理由の差別的待遇禁止を提案>

 地域制限とは、eコマース事業者による、特定の加盟国・地域の消費者に対する商品販売やウェブサイトへのアクセスの拒否、特定の加盟国で発行されたクレジットカードやデビットカードでの決済の拒否、などを指す。欧州委は、既に規制が存在する旅客輸送やリテール金融、オーディオビジュアル以外のサービス分野について、消費者の国籍や居住地を理由とする差別的待遇への対策が不十分だとして、新規則案を発表した。

 

 同規則案は、域内で活動するeコマース事業者に対して、ウェブサイトへのアクセスに関する地域制限と、同意を伴わない国別サイトへの自動転送の禁止、を提案している。さらに域内で、a.配達を伴わない商品の販売、b.クラウドなど電子的サービスの提供、c.特定の場所で提供されるサービスの提供(コンサートやテーマパークなど)を行う事業者に対し、EU法や加盟国法など正当な根拠のない、消費者の居住地などを理由とする差別的待遇の禁止を提案した。なお、売上高が一定額以下の中小企業は、一部規定の適用が免除される。

 

 欧州委は、2017年中に同規則案を成立・発効させたい意向だ。欧州のeコマース産業団体eコマース・ヨーロッパは、EU全域への発送に対応する義務や価格設定に関する規制が盛り込まれなかった点を歓迎している。同時に、「国境を越えた取引において、事業者と顧客のどちらの所在国の法が適用されるのか、明確にする必要がある」と強調した。一方、情報通信技術(ICT)関連企業が多く加盟する産業団体デジタルヨーロッパは「地域制限は域内の生活水準や消費習慣、言語などの差に適応した結果だ。規則案は企業にさらなる負担となり、消費者にとっても得るものが少ない」と、懸念を表明した。

 

<郵便事業者団体が難色示す>

 欧州委は同時に、域内の越境宅配便サービスに関する規則案を発表した。同規則案は、一定規模以上の宅配便事業者に対して、社名や住所、売上高などの報告を義務化し、監督を強化することを提案している。一方、郵便事業については、国内郵便と域内の越境郵便の基本料金を公開、加盟国の監督機関による評価を実施し、価格透明性を向上させることを提案した。また、域内の越境郵便において、送付先国の郵便事業者が差出国の事業者に請求する配送料(terminal rate)の報告の義務化や、配送料に関して差出国の全ての郵便・宅配便事業者を公平に扱うことを提案している。

 

 欧州の郵便事業者団体ポスト・ヨーロッパ(PostEurop)は、基本料金の公開による透明性の向上には賛意を表明した。しかし、その他の郵便事業に対する提案については、「機密性の高い情報の公開が求められるなど、過大な負担だ」として難色を示した。

 

 このほか、消費者保護について欧州委は、複数の加盟国にまたがる、問題のある商習慣に対する加盟国の協調強化に向けた法改正を提案した。前述のウェブサイトの地域制限への対策は、この改正案の枠組みで加盟国の管轄当局が実施することになる。また欧州委は、不正な商習慣に対するガイドラインを更新し、eコマースへの対応を図る。

 

(村岡有)

(EU)

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