為替政策を自由化、20日から取引開始-市場は好感も関係者は動向を注視-

(ナイジェリア)

ラゴス発

2016年06月23日

 ナイジェリア中央銀行は6月15日、ドルに実質連動させていた通貨ナイラを市場の需給に基づくレートに移行すると発表した。20日から取引を開始した。過去1年以上にわたり対ドル相場維持のために厳しい外貨規制を敷いてきた中銀の政策変更は、経済界や国際機関から好意的に受け止められている。しかし、日本貿易保険(NEXI)は引き受け条件を厳格化するなど、外貨不足という懸念が解消されたわけではない。

<政策変更の背景に内外からの強い圧力>

 中銀が615日に発表した為替政策の変更は、現行の1ドル=197199ナイラのドルペッグ制を廃止し、需給を反映した銀行間市場を創出するというもの(注)。20日から取引を開始し、さらに外為市場の規模・安定性を確保するため、27日からは先物取引も開始するとしている。

 

 原油価格下落による外貨準備高の減少を受け、中銀は金融機関への外貨供給を大幅に削減、14ヵ月にわたり対ドルレートを固定してきた(2016年3月9日記事参照)。しかし外貨供給量が制限される中、輸入企業はドルが調達できずに決済が滞り、両替商などによる非公式レート(並行市場レート)は2月に一時1ドル=400ナイラ前後まで下落するなどしたため、内外から為替政策への強い批判が出ていた。通貨と物価の安定を優先する中銀やブハリ大統領は、一貫して対ドルレートの維持を主張していたが、こうした圧力に抗し切れず、今回の政策変更に至った。

 

<予想以上に踏み込んだ自由化との受け止めも>

 中銀は52324日の金融政策委員会後の声明で、初めて正式に為替政策の変更を発表した。その際には、一部の重要な取引に対しては優遇レートを残す方針を示していたが、615日の発表にはその措置はなく、大方の予想以上に踏み込んだ自由化と受け止められている。

 

 IMFや内外のエコノミストらは中銀の発表を歓迎。また、ナイジェリア証券取引所の株価指数が、15日からの3日間で8.2%上昇するなど、市場も好感している。

 

 外為市場での取引は予定どおり20日から開始された。ロイターによると、中銀は53,200万ドルを1ドル=280ナイラで放出、さらに取引時間を延長し、1ドル=281285ナイラで8,650万ドルを供給したもよう。さらに先渡し(フォワード)取引向けにも約35億ドルを投じ、初日の供給額は40億ドルを超える大規模なものになった。

 

 ブルームバーグによると、初日の取引は1ドル=250260ナイラ前後で推移し、夕方には一時281.5ナイラをつけるなど大幅に下落した。15日の発表後、外為相場は260300ナイラ程度で落ち着くとの予想が多かったが、初日の取引はその範囲に落ち着いた格好だ。ただ、しばらくは乱高下が続くとの見方もあり、市場関係者や貿易関係企業は引き続き動向を注視している。

 

 ジェトロがラゴス市内の両替商窓口で確認したところ、中銀の発表前には1ドル=360370ナイラ前後で推移していた並行市場レートは、330340ナイラ前後まで戻しており、外為市場の公定レートとの差は縮小している。

 

<相場の安定に向け懸念も山積>

 為替政策を大幅に自由化したことで、外貨供給量が増加して貿易決済が容易になるほか、歳入不足を補うための対外借り入れが進むものと期待されている。連邦政府は2月から、世界銀行とアフリカ開発銀行から総額35億ドル規模の借り入れをする交渉を継続しているが(2016年3月11日記事参照)、融資実行の条件に外貨規制の緩和が含まれているとみられる。この借り入れが実現すれば、第3四半期にも行われる予定のユーロ債起債による10億ドル規模の資金調達にも好影響を与えることになりそうだ。

 

 一方で、これまでの厳しい外貨供給規制により、未決済のドル需要は少なくとも40億ドルに達しているといわれている。先渡し取引向けの約35億ドルの投入はこれを念頭に行われたものだが、未決済分のドル需要が軟化するか、なお楽観できない状況だ。

 

 また、15日の発表では中銀の介入権限も明確に示されているものの、ナイラの下落を阻止するためにどの程度の幅で介入を行うかは不透明だ。さらに20156月に施行したコメ、野菜、繊維製品、プラスチック・ゴム製品など41品目の輸入に対する外貨供給禁止措置は為替相場変更後も継続されるなど、外貨規制は全面撤廃に至っていない。

 

 加えて2月以降、産油地帯では武装勢力による原油生産設備・パイプラインなどの破壊活動が急増しており、産油量は日量60万~80万バレルも減少している。外貨が十分確保されるかは不透明で、ナイラ下落が継続する可能性もある。

 

NEXIは引き受け条件を厳格化>

 こうした動きに対してNEXI614日、ナイジェリアの外貨事情の悪化が懸念されるとの理由で、2年未満の保険の引き受け方針を変更し、信用状(LC)による決済を保険付保の条件とした。

 

 LCは、わずかずつだが決済できている実態があるため、ベネズエラのように全面引き受け停止とはならなかった。しかし、カントリーリスクの等級変更以外に引き受け条件を厳格化した主要産油国は過去1年でこの2ヵ国のみで、ナイジェリアの外貨不足による決済遅延が深刻であることを示している。

 

 引き受け方針の変更は、中銀による為替政策変更発表の直前に行われたもので、為替相場の大幅自由化とそれによる外貨供給の拡大と決済条件改善の可能性は織り込めない状況にあった。イランについては2016年に入ってLC条件が撤廃されるなど、現実に決済が進めば引き受け条件が緩和される可能性も高いため、今後のナイジェリア外為市場の動向を注視する必要がありそうだ。

 

(注)多くのメディアは変動相場制への移行と受け止めているが、中銀がどの程度の為替の変動で介入するかなどが不透明なため、一部金融機関などは需給を大幅に反映した管理フロート制への移行との見解を示している。

 

(宮崎拓)

(ナイジェリア)

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