離脱の引き金を引けるのは英国だけと強調-オズボーン財務相が金融市場安定に向け声明発表-

(英国)

ロンドン発

2016年06月30日

 EU離脱が多数を占めた国民投票の結果は、金融市場をはじめとする世界経済に影響を与えており、事態の沈静化に向け、英国の中央銀行に当たるイングランド銀行が緊急声明を発表するなどの動きが出ている。6月27日にはジョージ・オズボーン財務相が声明を発表し、EU基本条約第50条に基づく通知の引き金は英国だけが引ける、と強調した。

<ポンド急落、イングランド銀行が2,500億ポンドの供給枠設定>

 国民投票の結果を受け、英国株式市場の主要株価指数FTSEは一時5%近く下げた。ロンドンの外国為替市場では通貨ポンドが大幅に値下がりし、英国時間627日午前現在で1ポンドは1.35ドルを割り込むまでに下落した。国民投票の結果は英国や欧州に限らず世界各地の金融市場に影響を与えている。

 

 金融市場が大きく揺れ動く中、624日にはイングランド銀行が緊急声明を発表し、金融市場の安定に向けた2,500億ポンドに上る追加供給枠の設定や、必要に応じた外貨供給に加え、状況次第でさらなる対策を講じることもいとわない、などとする対策を公表した。

 

<離脱通知までは加盟国の地位は保証>

 627日には、オズボーン財務相が国民投票後初めて公式に声明を発表した。声明によると、投票結果を受けて予想される影響は大きく3つに分けられるとしている。

 

 1つ目は金融市場のボラティリティー(変動性)の高まりだ。市場関係者の多くが今回の投票結果を予想していなかったことが混乱の一因とされる。これに対して、財務省は今回の投票結果も想定した緊急時対応計画(コンティンジェンシープラン)を策定しており、事態を乗り切るには十分、と自信を示した。さらに、イングランド銀行による資金や外貨供給の対策に加え、G7の財務相や中央銀行総裁との協調についても協議を進めていることを明らかにした。また、欧州各国の財務相やIMF、主要金融事業者などと市場の推移を注視することを確認しているとした。

 

 2つ目が、EUとの新たな関係性が構築されるまでの不安定性だ。これに関しては、EUからの脱退条項を定めたEU基本条約(リスボン条約)第50条の引き金を引けるのは英国のみだとして、脱退の通知を行う前に新たな関係性に明確な見通しをつける意向を示した。その上で、脱退通知までの間はEU加盟国としての地位が保証されると強調した。また、新たな予算措置はデービッド・キャメロン首相の後継首相の下で執行されるものとし、国民投票を受けた予算案の具体化はこの秋以降になるとの認識を語った。

 

<英企業に自信を持つよう呼び掛け>

 一方で、国民投票以降、市場の見通しが不透明なことへの懸念から、金融市場などビジネス環境への影響が生じていることを認め、英国経済の競争力の高さや開かれたビジネス環境に自信を持つよう企業に呼び掛けた。

 

 最後の3つ目は、EU域外の国・地域との自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)の締結だ。どのような国といかなる内容の協定を結べるのかが焦点となるが、北米や英連邦(コモンウェルス)諸国、中国、インドなどとの協定締結を進める意向を示した。

 

(佐藤央樹)

(英国)

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