欧州委が内分泌かく乱物質の判定基準を提案-リスク・ベースでないことに業界団体は落胆-

(EU)

ブリュッセル発

2016年06月24日

 欧州委員会は6月15日、内分泌かく乱物質の判定基準を定めた2つの法案を発表した。両法案は、(1)人体などへの有害な影響、(2)内分泌系への作用、(3)内分泌系への作用と有害な影響の因果関係、が確認された物質を規制対象とするものだ。これに対して、化学物質の効能の強さを考慮した「リスク・ベース」の基準を求めていた域内の業界団体は、不満の意を表明した。

<現状は暫定基準で規制>

 欧州委が発表した法案はそれぞれ、農薬などを対象とする「植物保護製品規則(11072009)」と、防腐剤・抗菌剤やそれらを含む製品などを規制する「殺生物性製品規則(5282012)」(注)を改正し、内分泌かく乱物質の判定基準を定めたものだ。両規則とも、201312月までに内分泌かく乱物質の判定基準を策定するよう定めていたが、社会・経済的な影響に対する懸念や、専門家の間での意見の不一致などから、作業が遅れていた。

 

 なお現状では、内分泌かく乱物質のEUレベルの法的な判定基準はなく、植物保護製品規則と殺生物性製品規則では、発がん性や生殖毒性の度合いなどを暫定基準として、内分泌かく乱物質を規制している。

 

WHOIPCSの定義がベースに>

 欧州委が2つの規則を改正するかたちで提案した判定基準は、いずれも世界保健機関(WHO)の国際化学物質安全性計画(IPCS)が2002年に発表した定義をベースとしたもので、ほぼ同一の内容となっている。欧州委は、IPCSの定義が科学者の間で最も広く受け入れられており、欧州食品安全機関(EFSA)も支持を表明していることなどから、判定基準のベースとしたのは妥当だとしている。

 

 欧州委の判定基準は、(1)人体の健康と、標的以外の生物に有害な影響を及ぼすことが知られていること、(2)内分泌系に作用すること、(3)人体の健康や標的以外の生物への有害な影響が内分泌系への作用の結果であること、の3点からなる。また、判定においては、a.全ての有意な科学的証拠を考慮すること、b.それぞれの情報・データの「証拠の重み」を考慮すること、c.十全かつ体系的な検討を行うこと、の3点を求めている。

 

<ハザード・ベースの規制に業界は不満>

 欧州委は2法案の発表に際して、植物保護製品と殺生物性製品に関する両規則について、化学物質の暴露量を踏まえた「リスク・ベース」ではなく、固有の危険性のみに注目した「ハザード・ベース」の規制を定めていると説明した。両法案がこのまま成立すれば、一部の例外を除き、暴露の度合いにかかわらず、人体などに有害な影響を与える内分泌かく乱物質を、農薬や防腐剤、殺菌剤などの成分として使用することが禁止される。

 

 これに対して、化学物質の効能の強さ(potency)を考慮した、リスク・ベースの内分泌かく乱物質の規制を求めていた域内の業界団体は、落胆を隠せないようだ。欧州化学工業連盟(Cefic)、農薬など植物保護製品の業界団体ECPA、プラスチック製造業者団体プラスチックス・ヨーロッパは連名で声明を発表し、規制の目的と合致した科学的な基準が示されなかったと不満を表明した。特にCeficは、「効能の強さを考慮しなければ、実際に有害な影響を及ぼす物質だけに対策を講じることはできない」と指摘した。また、欧州委が植物保護製品規則について、最新の科学的知見が得られれば適用除外措置もあり得ると提案したことについても、「製品開発やイノベーションに向けた見通しが立たない」と批判した。

 

 両法案は今後、EU閣僚理事会や欧州議会の反対意見がなければ、植物保護製品規則の改正法は理事会の、殺生物性製品規則の改正法は加盟国の専門家の議論を経て、欧州委によって採択される。また、両規則は域内に輸入される製品にも適用されるため、欧州委は両法案をWTOに通知し、域外の第三国からのコメントも受け付けるとしている。

 

(注)殺生物性製品に関する規則については、ジェトロ調査レポート「EU殺生物製品規則の概要(2015年4月)」を参照。

 

(村岡有)

(EU)

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