EU首脳は迅速な離脱協議進める姿勢-追随図るEU懐疑派を警戒-

(EU、英国)

ブリュッセル発

2016年06月27日

 英国での国民投票を前に警鐘を鳴らし残留を求めたEU首脳は、「衝撃」の離脱決定を契機に態度を一転させ、EU離脱に向けた迅速な協議を進める姿勢を示している。しかし、他のEU加盟国のEU懐疑派はこの機に乗じて「(EU離脱の是非を問う)国民投票」を求める発言を強めており、EU首脳は火消しに追われている。EU首脳の関心は英国の動向よりも、次にEU離脱を図る追随者対策に移りつつある。

<トゥスク常任議長は「今後のことはEU27ヵ国首脳と協議」>

 欧州理事会のドナルド・トゥスク常任議長は624日午前845分に、緊急の記者会見を開き、「異なる結果を期待していたが、今後は(EU27ヵ国で結束を強めることになる。離脱の日までは、EU法は英国にも適用される」との見解を示した。これまで、EU28ヵ国の統合の象徴でもあった同常任議長が「今後のことは『EU27ヵ国』の首脳と協議する」と語った点で、EUが歴史的な転機を迎えたことを意味する。

 

 欧州議会のマルティン・シュルツ議長は自らのツイッター(624日)で「英国とEUとの関係は、この40年間、曖昧だった。しかし、今や明確になった」との認識を示し、「投票結果は尊重する。後は迅速かつ明確な(英国の)EU離脱協議を進めるだけだ」と淡々と語った。

 

<英国の離脱通告から2年で協議打ち切りも>

 今後のプロセスについて、「EU基本条約」(リスボン条約)の第50条が構成国の脱退について規定している。第502項によると、「(憲法上の要件に従って)EUからの離脱を決定した加盟国は、その意思を欧州理事会に通知。EUは、当該国との交渉を行い、その脱退に関わる協定を締結する。同協定は、欧州議会の同意を得た上で、EU理事会(閣僚理事会)を通じて特別多数決によって決定」される。また、同条3項によると、「(交渉の)期間は延長可能」と定められているが、「期間延長を全会一致で決定しない場合、欧州理事会への通知から2年後に、(EU基本条約の)当該国への適用を終了する」と規定される。

 

 欧州委員会のジャン=クロード・ユンケル委員長は622日の記者会見で、「英国の政治家や国民投票の有権者は、EU離脱を選択したら、(EU改革のための)再交渉の機会は一切認められないことを知るべきだ。離脱したら終わりだ」と警鐘を鳴らしていたが、結局、英国民には届かなかった。

 

 過去にEU(当時、EC)を離脱した唯一の事例として、19852月のデンマーク自治領グリーンランドの離脱(正確にはデンマークはEU加盟国であるため、地域としてのEU法の適用除外)がある。この時は、19822月の住民投票で「離脱」が決定したものの、漁業権や財政支援の協議が続けられた。しかし、EUと英国との経済関係は複雑で、また、前記のシュルツ議長発言のように、英国の判断に対し諦めの思いもあることから、EU側が2年で協議を打ち切るリスクも否定できない。

 

<フランスやオランダで国民投票求める動き>

 他方、英国のEUからの離脱が確定したことから、同様の主張を掲げるEU懐疑派の政治家は勢いづいている。フランスの極右政党「国民戦線(FN)」を率いるマリーヌ・ルペン党首は自らの624日のツイッターで、「自由の勝利だ。これまで何年も求めてきたことだが、今こそフランス、そしてEU諸国でも国民投票で(EU離脱の)信を問うべき時だ」と語った。

 

 また、オランダの極右政党「自由党(PVV)」のヘルト・ウィルダース党首も、「623日は『英国独立の日』として歴史に刻まれるだろう」「英国は、欧州が将来、そして自由に向けて進むべき道を示した」と、今回の結果を称賛。「オランダでのEU離脱の是非を問う国民投票の機会が必要だ」と624日の自身のブログで述べた。さらに「われわれの国、通貨、国境、移民政策に対する責任は自ら負うべきだ。私が首相に就任したら、オランダのEU離脱の是非を問う国民投票を行う」と宣言した。

 

 EU首脳は、こうした追随者に対し警戒感を募らせている。

 

(前田篤穂)

(EU、英国)

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