ヒトの自由移動制限で労働市場に混乱も-英国のEU離脱問題で人材派遣大手アデコが注意喚起-
(EU、英国)
ブリュッセル発
2016年06月29日
英国のEU離脱問題について、欧州に本社を置く企業もそれぞれの視点で、分析や見解を発表している。人材派遣大手アデコ(スイス)は、EUの労働法制には英国で国内法化されているものも多いが、英国での施行でもめた法令については改正される可能性があると指摘し、影響が想定される顧客に対して相談するよう呼び掛けている。また、国際不動産開発大手クッシュマン・アンド・ウェイクフィールド(米国)は、最も顕著な影響が出る産業として不動産業を挙げた。
<英国の労働法の一部は改正の可能性>
英国の国民投票でEU離脱が多数を占めたことは、これまで英国を含めてEU域内で一体化していた労働市場にも影を落とすことになる。
スイスの人材派遣大手アデコは6月24日に、「EU離脱は英国労働市場にどのように影響するか」と題する分析結果を発表し、「英国の労働法の多くはEU法の枠内で整備されてきたが、これらの中には英国の国内法として制定されているものもあり、EU離脱に伴って全てが効力を失うわけではない」と指摘した。しかし、(英国での導入時に激しい労使交渉が行われた)「派遣労働者規則(AWR:Agency Workers Regulations)」と(事業譲渡に伴い経営者に変更が生じた場合に、特定要件を満たす従業員の雇用継続を新経営者に求める)「事業譲渡・雇用保護規則(TUPE:Transfer of Undertakings、Protection of Employment Regulations)」については「今後、改正される可能性がある」との見方を示した。EUの労働法制は労働者の権利を重視したものが多く、英国では導入の是非をめぐって中小企業経営者を中心に反発が根強かった。
アデコは「EU市民に保障された域内の移動自由の権利が英国で停止された場合も、企業実務には厳しい影響が出る」と指摘し、これらの影響が想定される顧客の企業や労働者に対して、同社の支店などに連絡するように呼び掛けている。
<最も影響を受けるのは不動産業界か>
米国を本拠地とする国際不動産開発大手クッシュマン・アンド・ウェイクフィールドは、ジョン・フォレスター欧州中東アフリカ事業担当経営責任者のコメントを発表、「英国のEU離脱で最も顕著な影響が出る産業は不動産ビジネスだろう」との見方を示した。同氏によると、既に不動産市況には不透明性が漂い、投機的な動きも確認したという。
また、ドーバー海峡の英仏海峡トンネルを運営するユーロトンネル(本社:パリ)も声明(6月24日付)を発表し、「事態の収束には時間がかかるが、英国とフランス、そして英国と大陸欧州を結ぶことが使命だ」とし、今後の見通しについて「ポンドの下落は当社が抱えるポンド建て負債の軽減につながる。また、競合関係にある(英国の)フェリー事業者にはコスト増となるだろう」「マイナスの影響もあるが、これらは相殺する」と分析した。同社の発表によると、同トンネルを利用するトラックは年間150万台、旅客は2,100万人、英国の輸出の44%がEU向けで、輸入の53%をEUからが占めるという。なお、同トンネルは1986年2月に、英国・フランス両政府間のカンタベリー条約に基づき敷設された。
英国を代表する製造業であるロールス・ロイス・ホールディングスは、6月24日の発表で、(国民投票は望んだ結果ではないとしながら)「これまで1世紀近く本社を置いてきた英国に今後もとどまり、雇用を継続する。研究開発などの業務を通じて成果を上げたい」とした。また、収益構造上、「売上高の3分の2と受注の4分の3はEU域外からのものであり、短期的な事業にEU離脱問題の影響はない」「中長期的な影響は(離脱交渉で決まる)英国とEUとの関係次第だ」との見方を明らかにした。
(前田篤穂)
(EU、英国)
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