ビジネス環境は良好も、プロジェクトの遅れに懸念-カタール・ビジネスセミナー(2)-

(カタール)

ドバイ発

2016年06月22日

 5月31日に開催されたカタール・ビジネスセミナーの後半では、ドーハに拠点を持つ邦銀および調査会社MEEDが、インフラプロジェクトに関する概況と今後の懸念事項を紹介した。同国のインフラ需要は、建設と輸送がそれぞれ35%、石油・ガス関連が12%を占め、この3分野で全体の約8割となっている。連載の後編。

<治安を含め安定したビジネス環境>

 カタール政府機関からのプレゼンテーションに続き、在ドーハ邦銀から現地のビジネス環境などについて紹介があった。

 

 三菱東京UFJ銀行ドーハ出張所の伊勢田兼之所長は、カタールのビジネス環境の特徴として、(1)カタール航空は世界150ヵ国・地域にネットワークを有する、(2)中東地域は治安情勢が懸念されるが、取引信用保険のコファスによるカントリーリスク評価でカタールは「A2」と高く、これはリスクが日本と同等の低い水準にある、(3)これまではドバイなど周辺国と比較すると生活コストが高かったが、現在は物流コストの低下から安くなってきている、ことを挙げた。

 

 インフラ関連では、2022年のサッカー・ワールドカップのみならず、2019年の世界陸上、2023年の世界水泳など、世界的なスポーツイベントが予定されており、豊富なビジネス需要が期待される。

 

 また、政府は産業多角化を進めており、金融や建設といった非エネルギー分野が経済を支えている。肥料やアンモニア、鉄鋼などはカタール国内で生産しており、また自動車の組立工場も有している。これらの製品は毎年「メード・イン・カタール」という展示会で紹介されており、2016年は11月に開催の予定だ。

 

 引き続いて、三井住友銀行ドーハ出張所の竹迫政寿所長は、実際にカタール金融センター(QFC)の支援を受けている立場として、QFCの支援スキームを紹介した。QFCの支援認定を受けると、100%単独資本で事務所が設置でき、同時にオンショアでのビジネスが可能になるなどのメリットがあるが、最大の魅力はQFCがワンストップショップとして支援を行うことだ、と指摘する。居住許可などの各種手続きについて、QFCを窓口とし、アドバイスを受けながら進めることにより、通常の申請に比べて短い期間で、トラブルなく、かつアラビア語でなく英語で手続きを行うことができる、と述べた。

 

<入札手続きの遅れや輸送集中に伴う悪影響も>

 最後に、中東のインフラ情報提供を行うMEEDのマネジングエディターであるエリザベス・バインズ氏が、今後のカタールのインフラプロジェクトについて説明した。同国のインフラ需要を分野別にみると、建設が約35%、輸送が約35%を占め、次いで石油・ガス関連が約12%と、この3分野で約8割に上る。建設プロジェクトの内訳は多目的複合施設が43%、続いてホテル・リゾートが13%、政府関係施設が11%、スポーツ関係施設が10%となっている。具体的なプロジェクトの例として、ハマド国際空港ではコンコースの増設・拡張が予定されており、30億~40億ドルに達する見込みだ。そのほか、高速道路整備については計728キロ、32件の入札が予定されており、400億ドルの規模になる。

 

 プロジェクトの発注元顧客ベースでみると、プロジェクトが実施中のものについてはカタール鉄道会社、公共事業庁(アシュガル)、カタール電気・水会社が上位3社だ。将来のプロジェクトでは、このほかにカタール石油も大規模な発注元になることが見込まれる。

 

 一方で懸念事項として、原油価格の下落を受けて入札手続きの遅れや幾つかのプロジェクト見直しが発生しているほか、2017年ごろにはサッカー・ワールドカップに向けたインフラ工事がピークになることが予想され、建設資材の輸送が集中することでプロジェクト現場への資材到着の遅れが発生する可能性が出ている。

 

(水野光)

(カタール)

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