EU経済への影響が国内の景気回復を遅らせる懸念も-英国の国民投票への反応-

(ブラジル、英国)

サンパウロ発

2016年06月29日

 英国の国民投票でEU離脱が多数となったことが、ブラジル経済を直接的に揺るがす要因になるとはみられていない。しかし、EUの金融市場・経済に影響が及ぶことで、国内の景気回復を遅らせる懸念がある。また国内報道では、南米南部共同市場(メルコスール)とEUの自由貿易協定(FTA)交渉への影響も取り上げられている。

<中銀は変化に対応する備えを強調>

 ブラジル中央銀行は624日、英国の国民投票の結果を受けて声明を発表した。グローバル市場と国内市場を引き続き注意深く監視し、必要な際には、金融・為替市場の健全な機能を維持するために適切な措置を取る、としている。また、ブラジル経済は高い水準の外貨準備高を備え、変動為替相場制度を維持し、国際市場の価格変動にさらされている資産の割合が低い強固な金融システムがあることから、今回の件で派生する変化に対応する基礎条件を備えていることを強調した。

 

 中銀資料によると、ブラジルの外貨準備高は623日時点で3,775億ドルと、201512月末時点(3,687億ドル)と比べて若干増加し、経常収支は201614月に72億ドルの赤字だが、前年同期(589億ドルの赤字)から大幅に改善している。これは景気低迷に伴う輸入の減少による貿易黒字の増加が寄与したものだ(14月の貿易収支は124億ドルの黒字に対して前年同期は55億ドルの赤字)。なお、627日の金融指標では、ブラジルを代表する株価指数のボベスパ指数は49,246ポイントと先週末比1.72%下落、為替は1ドル=3.39レアルと0.47%ドル高に振れている。

 

 英国との貿易・投資関係をみると、2015年の輸出額に占める英国の割合は1.5%、輸入額は1.6%と低く、対内直接投資額(親子会社間の資金貸借を含まないグロスの直接投資額)でも英国は2.8%(国別順位10位、日本は5.0%で6位)とそれほど大きくはない。しかしEU全体では2015年の輸出額の17.8%、輸入額の21.4%を占め、対内直接投資額では、オランダ(20.0%)、ルクセンブルク(11.4%)、スペイン(11.3%)、ドイツ(6.0%)と上位にEU諸国が並ぶ。つまり英国の影響というより、EU全体の金融・経済状況が悪化した際のブラジル経済への影響が懸念される。

 

<メルコスールとEUFTA交渉にも注目>

 前中銀理事で地元金融機関エコノミストのマリオ・メスキッタ氏は地元マスコミの取材に対し、ブラジル経済への直接的な影響は限定的としながらも、景気回復を遅らせる要因であることは確かだとし、政府は今後の経済政策を実施していく上で影響を考慮する必要があるとしている(「バロール・エコノミコ」紙627日)。特に、6月末時点で年率14.25%と高止まりしている政策金利を引き下げるタイミングが早まる可能性も示唆した。

 

 地元報道では、マクロ経済面以外に、メルコスールとEUFTA交渉への影響も注目されている。英国はEUの中でもメルコスールとのFTA交渉の推進派だったこともあり、今後の交渉スケジュールが遅れる懸念が報じられている(「バロール・エコノミコ」紙627日、「フォーリャ・デ・サンパウロ」紙625日ほか)。セーハ外相は627日の「フォーリャ・デ・サンパウロ」紙に寄稿した記事で、EUとのFTA交渉を進展させるためこれまで以上の努力をし、さらに英国と個別の貿易・投資協定も模索する方針を述べている。

 

(二宮康史)

(ブラジル、英国)

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